『祈れ呪うな/キリンジ』 [キリンジ]
こんばんは、暑いですね。
本日取り上げますのはキリンジの7インチ。
今年、二ヶ月連続でリリースされたダウンロードオンリーの楽曲の強力カップリング。
キリンジは配信を積極的に利用していますね。
まずはA面。
先攻は兄氏の詞曲による「祈れ呪うな」。
5月に配信されました。
千年に一度といわれる天災での大きな爪痕がひっぺ返した、長年にわたって隠されてきた国家レベルの陰部。昨年の東北大震災~福島原発事故以降のわが国の世界秩序を非凡なソングライティングで描く野心作。
♪ドドン、ドドンと遠く彼方から聞こえる和太鼓の地鳴りのようなドラミング。
淡々と土着的でどこか沈んだ印象を受けます。
ドラムのリズムに合わせて奏でられる鍵盤のフレーズも何となく不穏なニュアンスを湛えています。
ドラム、ベース、ギターのシンプルなアンサンブル、70年代のアメリカンロックのような骨太の響き。
ハードでアグレシッブなリードのエレキギターが硬い拳を振り上げんばかりに熱いフレーズを弾きまくります。
そしてビターなサウンドに乗せて、
ロック詩人、兄氏がシリアスでクールな視点で「炭鉱のカナリア」を買って出ます。
弟氏の鮮やかな歌唱が言霊となって空々しい街に放たれます。
♪ 風に煽られ踊る新聞紙
本当のことは誰にも判らない
「トゥギャザーしようぜ、土下座させようぜ」って
知ってたくせに騙されたとわめくか
やましさのタトゥー刻みつけて
とこしえに背負っていくパレードよ
祈れ 呪うな
あれは荒ぶる神だぜ
ああ、怖い 吹き飛ぶ屋根が
祈れ 鎮まれ
眠れ 荒ぶる神よ
ああ ああ 凄いな
真っ赤だ 空が
空が落ちるかも
♪ 地獄の釜を炊く神の火で
仕事は増える 暮らしは潤う
それは昨日まで信じていたデイドリーム
起きろよ ラララ アトムの子らよ
ロック漫筆家、安田謙一さんがディスクジョッキーを務める「夜のピンチヒッター」(ラジオ関西)にてこの曲に続いて、沢田研二さんの今年リリースしたシングル「3月8日の雲」をオンエアしました。
奇しくも同じ事件へのリアクションをほぼ同時期に起こした世代の異なる二組のミュージシャン。
その真摯なメッセージの深さ、そして偶然にもサウンドにも共通項を見出すことができました。
僕がキリンジのこの曲を聴いて連想したのは山下達郎さんの「THE WAR SONG」(1986)です。
この曲は達郎さんにしては珍しいメッセージソングで、当時の内閣首相、中曽根康弘氏の「不沈空母発言」にインスパイアされたと言います。
そしてサウンドも比較的にロックよりなソリッドでビートの強い演奏が実にかっこいいです。
もちろん、メッセージ性の強い歌詞もリリカルで味わい深く、陳腐ではありません。
達郎さん、キリンジ、それぞれのサウンド志向を感じさせるプロテストソング。
後攻めB面は弟氏による「涙にあきたら」。
6月に配信されました。
一転、リラックスした朗らかなポップメロディに口元が緩んでしまいそうな。
暗く垂れ込めた雨雲の間から陽光が差し込んだような。
この作品は弟氏の仲間や知人たちを思い浮かべながら作ったそうです。
60年代中期のソフトロック風なシャッフルビート。
ご機嫌なサウンドに乗って、落ち込んだ友人たちへ陽気に語りかけるような素敵な歌ですね。
弟氏の歌声も軽やかで明るいです。
対照的なふたりのセンス溢れるソングライティング。
とてもすばらしいカップリングですが、
あまり話題になっていないような気がします。
こういう曲がもっと街に広がればいいのにな、と思います。
『祈れ呪うな』《JS7S043》<作詞・作曲:堀込高樹/編曲:キリンジ>(04’59’’)【2012】
~Connoisseur Series~KIRINJI「SONGBOOK」
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2011/10/19
- メディア: CD
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