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『元禄名槍譜 俵星玄蕃/三波春夫』 [歌謡曲/60年代]

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こんばんは。
前回の元春の記事もそうですが、
シネコンで、コンサート映像を上映する機会が増えていますね。
別に今に限ったことではないですが、シネコンの高い音響設備と現代の映像技術が効果的に利用されていますね。
コンサートのみならず、演劇・オペラ・ミュージカルなどの舞台芸術もシネコンで上映されています。

さて、『フィルム・ノーダメージ』を配給した“livespire”が今年の初夏に上映した作品を観たことも書いておきましょう。

その名も、
『三波春夫特別シネマ公演  歌藝(うたげい)~終り無きわが歌の道』。
故・三波春夫氏の生誕90周年、13回忌を記念しての上映。
これまでソフト化されなかった1976年のリサイタルと、1994年の芸能生活五十五周年のリサイタルをHDリマスターして公開。それぞれ53歳、71歳のときのステージです。



不覚にも、シネマ公演の上映されるシアターを勘違いして、異なるシアターの席に座ってしまいその劇場での上映が始まるまで間違いに気付かず、76年のリサイタル部分の冒頭を見損なうアクシデントに見舞われました。
アホです。
そんな訳で途中からの観賞になりましたが、予想以上に感銘を受けました。
76年の公演は脂の乗り切った円熟の喉で往年のヒットを連発します。
94年公演では、ライフワークの長編浪曲歌謡の集大成であり最新作である『平家物語』を披露したり、流行の音楽を取り入れてみたり、古希を迎えても衰えない旺盛な創作意欲を感じさせます。
そして聴衆へ向ける慈愛と感謝に満ちたえびす様の如き笑顔。
その惜しみなさ、美しさ。
約二時間の上演時間いっぱいに数々の名曲が披露されましたが、それらの中でもひと際印象的で度肝を抜く天晴な演目がありました。
それは『元禄名槍譜 俵星玄蕃』です。

先ほど触れた、ライフワークの長編浪曲歌謡の第一弾でもあります。
三波さんはもともと浪曲師として活動していて、のちに歌手デヴューするのですが、活動の原点である浪曲と歌謡曲を折衷して三波さん独自の世界観を大衆に問うた初めての作品なのでした。
ときは1964年、折しも『東京五輪音頭』で大ヒットの波に乗っていた頃です。
このとき41歳。
心技体ともに、創作意欲の機は熟せり。

今回ご紹介するシングル『晴れ姿 三波ぶし』の中の一曲。
三波さんの一世一代、空前絶後、唯一無二、名曲中の名曲。

俵星玄蕃とは、赤穂浪士の討ち入り話を元に講談師が創作した架空の人物で槍の名手。
赤穂四十七士の一人、杉野十平次が吉良邸の動向を探るために、近所で夜泣き蕎麦屋を営んでおりました。
俵星は夜泣き蕎麦屋の常連で、しだいに店主と懇意になっていきます。

かねてより赤穂浪士に共感を覚えていた俵星玄蕃。
討ち入りを目論む夜泣き蕎麦屋に並々ならぬ想いを寄せ、
蕎麦屋の本名を知りたく思いながらも敢えて訊こうとせず、
いざ!というときに役に立つようにと得意の槍の技を披露して別れたその日のその夜・・・。
討ち入りを知らせる太鼓の音を耳にした途端、居ても立ってもいられずにいくさ支度を始める俵星。
雪道の中、槍を抱えて衝動的に吉良邸へ急ぎます。
あの蕎麦屋にまた逢える!
恋にも似たような、胸の高まりをきっと玄の字は感じていたのだと思います。

三波さんの意気揚々とした歌声と語り。
その説得力、半端ではありません。
天性の明朗な調子が劇的な場面を鮮やかに活写します。

この作品の作詞を担当する“北村桃治”とは三波さんのペンネーム。
作詞というか脚本家兼演出家というのが相応しいでしょう。
作曲と編曲は長津義司氏。
『チャンチキおけさ』の作曲者でもあり、三波さんの作品も多く手掛けられています。

シネマ公演でこの曲を聴いて以来、頭の中で『俵星玄蕃』が駆け巡る日が続きました。



曲だけ聴いても素晴らしいですけれど、三波さんのパフォーマンスと合わせて聴けばさらに威力は倍増です。

この動画はとにかく、凄いとしか言いようがありません。
まさに独り舞台、独断場。
ワンマン。
ノーヒットノーラン、いや完全試合。
磨きのかかった節回し、キレのある舞踊。
威風堂々たる所作。
大観衆の注目を一手に引き受けての花舞台。

吉良邸にて、ついに俵星と杉野が再会する場面。

“先生っ!!”

“おぉぉ~、蕎麦屋かぁ~!!”

三波さんのドヤ顔、最高です!
スカッとしますね。
痺れます。

こうして動画を毎日のように見まくり、日本橋の中古盤屋でレコードを探しました。
何度観てもグッときます。
快哉を叫びたくなります。
ストレスが吹っ飛びます。

こういう作品に出会うと、音楽のジャンルなんて全然関係なくなります。
浪曲だから、演歌だから、歌謡曲だからとか、チャンチキ、いや、ちゃんちゃらおかしくなります。
何のエクスキューズも要らない、音楽だけの力が漲っています。
イイものはイイのです。

山下達郎さんは大の三波春夫ファンで有名ですが、
三波さんがお亡くなりになった時、哀悼の意を表して、この曲をご自身のラジオ番組でノーカットでオンエアしたこともありました。

僕が三波さんに興味を覚えるようになったのは達郎さんの影響もありますし、
作家の森村誠一氏が以前にNHKの番組で三波さんのことを語っていたことがあって、その話に惹かれたからというのもありました。

さて。
元春の『ノーダメージ』を観た後で、不意に少し前に観た三波さんのシネマ公演にも思いを馳せたとき、
『俵星~』は三波さんにとっての『R&R NIGHT』だと勝手に腑に落としました。
または元春にとっての『俵星玄蕃』が『R&R NIGHT』である、と。
曲の長さとかほぼ同じだし(8分台)。
『俵星~』も『ロックンロール~』も畢竟、オペラである、と。
サウンドは異なりますが、音楽へのパッションは通じるものがあると思います。
同じなんだと思います。

長尺の曲なのでシングル盤は33回転で再生されます。
A面には『俵星~』のオリジナルバージョンが収録されていて、
B面には短縮版ともいえる『俵星玄蕃(台詞入り)』が収録されています。
オリジナルバージョンにも勿論台詞は入っていますが、B面の方には浪曲の場面がカットされています。
その代わりに、オリジナルバージョンには入っていない四番の歌が入っています。

B面にはもう一曲、『権八忍び笠』という作品が収録されています。
作詞は藤田まさと氏、作曲と編曲は同じく長津義司氏。
脛に傷持つ侍家業の悲哀を艶やかな名調子で歌い上げます。


僕がなんとなく音楽を聴きだした80年代中期頃は、三波さんは押しも押されぬ歌謡界の大御所で、
保守的でステレオタイプな音楽だと勝手にカテゴライズしていました。
自分の音楽趣味に相容れない存在とばかり思っていました。
そういう判った風な気持ちが一番いけませんね。
固定観念に囚われてました。
若気の至りです。
ちゃんと聴いてみないと判らないことが多いのです。

電気グルーヴと共演したり、ルパン三世の歌も歌ったり、ご自分の音楽領域に分け隔てなく様々なジャンルとコミュニケーションを取られる三波さんの懐の大きさ、フレキシブルな思考。
いや実に若々しい感性の持ち主であったと今更ながら思います。
劇中でも、五十五周年記念のコンサートにて『チャンチキおけさ』をアカペラバージョンを披露されたり。
まさに国民的歌手に相応しい存在。

折しも、1964年以来二度目の東京でのオリンピックの開催が決定したばかり。
三波さんの『東京五輪音頭』に宿る博愛精神が7年後のトーキョーにも響き渡りますように。

『元禄名槍譜 俵星玄蕃』《SS-26》〈作詞:北村桃治/作曲・編曲:長津義司〉(08’19’’)【1964】


元禄名槍譜 俵星玄蕃/豪商一代 紀伊国屋文左衛門

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