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『Sugartime/佐野元春』 [佐野元春]

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こんにちは。
先週末、大阪の堂島リバーフォーラムにて、佐野元春の『SOMEDAY』再現ライヴを観てきました。
エムオン・エンターテイメントが主催する『名盤ライヴ』という名の元、ミュージックシーンに偉大な足跡を残したアルバムをライヴで全曲演奏するという企画の記念すべき第一弾が今回の『SOMEDAY』でした。

1982年にリリースされた3rdアルバム『SOMEDAY』で元春は名実ともに日本のロックシーンをリードするアーティストに躍進しました。
あれから約30年が過ぎた現在も元春は精力的にクリエイティヴに音楽活動を継続しています。

僕が『SOMEDAY』に出会ったのはリアルタイムではなくて、1988年の秋頃、中学三年生でした。
近所のレコードショップ、すみやでCDを買いました。
定価¥3500也。
それこそレコードなら擦り切れるほど聴きました。
多感な頃に出会えて良かった青春のアルバム。
ロックンロールとロマンチシズム、そしてイノセンス。
永遠の十代の聖典。

そんな思い出深い一枚が四半世紀過ぎた今、ライヴで全曲を聴けるとは思いませんでした。
心の中で何度も再生された音楽が。
そんな記念すべきライヴの為に元春をサポートするバンドのメンツがまた凄い。
これまでの元春の音楽活動を支えた盟友たち、ザ・ハートランドとホーボーキング・バンドの選抜メンバーを中心に脇を固めます。その多くが現在も第一線で活躍しているプレイヤーばかり。
当然、期待感が高まりますが、期待を超える感動のライヴが展開されました。
単なる懐メロコンサートにしない、質の高いパフォーマンス。
30年前当時の声質ではない、現在の元春が歌い易いようにキーを下げてしまえば簡単なのでしょうけれど、敢えてオリジナルキーに拘っての熱唱。
それがこのアルバムを愛し続けてくれたファンへの誠意だというように。
高い音が出辛くても、魂を振り絞るように唄い倒してしまうのが凄い。

そしてオリジナルバージョンに準じた演奏。
元春がライヴでは曲のアレンジを変更するのはファンなら知っていますが(近年の作品はそれほどでも無いですが)、今回はアルバムに敬意を表して全曲、同じアレンジで進行しました。
代表作品の多い『SOMEDAY』収録曲はライヴで聴いたことが何度もありますが、オリジナルバージョンのアレンジで初めて聴く曲は少なくありませんでした。
そういう意味でも新鮮でしたしレアでした。
何と、この名盤ライヴで初めて演奏する曲もありました。
一曲一曲を噛みしめるように丁寧で素晴らしい演奏が繰り広げられました。
勿論、大いに盛り上がりました。
元春の音楽と共に大人になった、イイ大人たちが無邪気に歌って踊ってました。
通常の元春のライヴより黄色い歓声が多かった気がします。
若かりし頃の思い出と共に楽しみました。
振り返る思い出があることは良いものです。
夢のようなひとときでした。

改めて、『SOMEDAY』というアルバムの存在の大きさを考えました。
メロディに日本語を乗せてロックするという問題。
70年代以降ずっと我が国で試されてきた問題へのアプローチに、颯爽と新しい回答を持ち込んだの佐野元春でした。ほぼ同時期に桑田佳祐もユニークな回答を以て、日本語のロックに新風を送り込んできました。
疾走感のある言語感覚とビートを持ち込んで日本語のロックの新しい潮流を感じさせる二枚のアルバムを制作しましたが一般レベルまでの評価までには至りませんでした。
続く3rdアルバムは“言葉”、“ビート”に加えて迫力のある“サウンド”をクリエイト。ドラマティックな楽曲とサウンドでアルバムは大ヒットします。
全11曲、一曲の駄作もなく、アルバム全体が“都会の夜の喧騒”というトーンで貫かれています。
“ウォール・オブ・サウンド”が都会の喧騒をノスタルジックに、効果的に表現しています。
アルバムのA面、B面それぞれにハイライトといえる重要曲が壮大に配置されているのも特色。
コンセプト・アルバムという訳ではないのですが、物語のように見事に起承転結が描かれています。
アナログ・レコーディングの最盛期を飾る一枚。
非の打ちどころがありません。
そのサウンドには大瀧詠一、吉野金次というスタジオ録音についてのオーソリティからのサポートも大きいです。
『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』の成功も好影響でした。
その後、元春のサウンドに影響を受けたミュージシャンが数多く登場したり、そのサウンドが歌謡曲方面へも影響を与えました。その頃には元春はマンハッタンブリッジに佇んでいたのですが。

と、前置きだけでお腹いっぱいですがもう少しお付き合いのほどを。

シングルをご紹介しましょう。
『Sugartime』。
元春の7枚目のシングルでアルバム『SOMEDAY』と同時発売でした。
ご存じ、アルバムのオープニング曲也。
シンフォニックなアルバムの世界観の導入部として相応しいドリーミーなポップス。
当時の元春の作品としてはこれまでになくスウィートだったと想像できます。
タイトルからして甘美なのですが、もともとこの曲は“エレファントマン”という仮タイトルだったそうです。
1980年に公開されて話題になった同名映画からインスパイアされたようです。
今回の名盤ライヴにはコンサートのお土産としてDVDと書籍が付いてきました(それだけにチケット代は高かったのですが)。
これらが実に最高でして。
『SOMEDAY大全集』というべき内容で、このアルバムについての魅力や謎がディテールを通して余すことなく語られており、史料価値の大変高いモノで感動しました。
収録されている、元春と伊藤銀次両氏の超ロングインタビューに寄れば、この曲の歌詞はもっと過激な歌詞が付いていてメッセージ性のある内容だったと云います。
歌詞の攻撃的な内容を訝った銀次さんと当時のディレクターの小坂洋二氏のアドヴァイスもあり元春は歌詞を変更したそうです。
まだ佐野元春を聴いたことのないリスナーへの配慮なのでしょう。
結果、ハートウォーミングなラヴソングになったのですが、表層的には楽天的なイメージを装いつつも、歌詞の核心としては世界の欺瞞にアジテートする若者の熱気が滾っていることがサビの歌詞から垣間見られます。
元春のキャッチ―なメロディセンスがバクハツしているし、サウンドも凝っています。
トニー・ヴィスコンティを意識したというゴージャスなストリングスが響き渡り、ドラムの生演奏にリズムボックスのビートを同期させてポップな音色を加味したり、聴きごたえもあります。
ワンコーラスの終わりでのブレイクの瞬間に、元春が“I love you”と囁いているのも聴きどころ。
アルバムバージョンだと“I need you”と囁いています。



この曲で始まった名盤ライヴ、楽しかったなぁ。
 ♪ あの時の二人
 ♪ あの日の輝き
のところ合唱。
一気に’80年代初頭へタイムワープ。

B面は『WONDERLAND 〈WALKMANのテーマ〉』。
’80年代の大ヒット商品、ソニーの携帯カセットプレイヤー“WALKMAN”のCМソングのフルサイズ版です。
’82年頃にテレビでオンエアされていたのでしょうけれど、僕は残念ながら記憶にありません。
元春もソニー系列のレコード会社に所属していたので依頼されたのでしょう。
初期のビートルズ風のマージ―ビートを意識したポップソングに仕上がっています。
元春の作品でもっともビートルズを感じさせる楽曲になりました。
英語による歌詞も珍しかったです。
“ワッチュナウ!!”というシャウトでの歌いだしもチャーミング、ワクワクします。
特にに『SOMEDAY』~『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』はブリティッシュロックに傾倒したサウンドが多かった気がします。



この曲は勿論アルバム未収録なのですが、のちに『SOMEDAY Collector's Edition』(2002)のボーナスディスクにモノラルバージョンが収録されました。
シングルのステレオバージョンは未CD化です。
CМサイズ版はCM音楽制作会社“ON・アソシエイツ”の『音源集夢一夜~ONアソシエイツ CM WORKS プロデューサーズ・チョイス II』に収録されています。このコンピもとってもいいですよ。

今回の『名盤ライヴ』が単なるノスタルジーに終わらないのは、元春が80年代、90年代、ゼロ年代、そして現在も音楽シーンの第一線で活躍しているからに他なりません。
今年リリースされた最新作『ZOOEY』も掛け値なしに大傑作でした。
この傑作共々、今の若い世代にも『SOMEDAY』を聴いて欲しいと思います。

早くも12月にはコヨーテバンドとレコーディングした新曲が配信でリリースするとのこと。
楽しみですね。

『Sugartime』《07・5H-115》〈作詞・作曲・編曲:佐野元春〉(04'12'')【1982】


SOMEDAY

SOMEDAY

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2013/02/20
  • メディア: CD



ZOOEY

ZOOEY

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Daisy Music
  • 発売日: 2013/03/13
  • メディア: CD



NO DAMAGE:DELUXE EDITION(DVD付)

NO DAMAGE:DELUXE EDITION(DVD付)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2013/12/25
  • メディア: CD



トーキョー・シック(DVD付)

トーキョー・シック(DVD付)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2014/01/22
  • メディア: CD



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いとぞう

名盤ライヴ、大阪公演も大盛況だったようで良かったですね!
ウォール・オブ・サウンドが忠実に再現されていて、とにかく楽しかったです。レコードに針を落とす映像の後、1曲目の「Sugartime」が始まった瞬間、このライヴの成功を確信しました。そのくらい素晴らしかったです。

この曲が最初はもっと過激な詩だったという事を始め、特典のBOOKで初めて知るエピソードが多く、まだまだ語られてない事が沢山あるんだなぁ・・と実感しました。DVDでは吉野金次さんを優しく気遣う元春の姿に感動・・

B面の「WONDERLAND」がまだ未CD化だった頃、このシングル盤を中古レコード屋で探しまくったっけ。

そう、アルバムもライヴも決して懐メロにならないのは元春が今も第一線でバリバリ活躍し、意欲的な新作もリリースしているからですよね!
今度の新曲も楽しみなのですが、またしても配信のみというのが残念・・間もなくCDで発売の「トーキョー・シック」のように、時間が掛かってもいいからパッケージでも届けて欲しいです。
by いとぞう (2013-11-28 17:53) 

都市色

>いとぞうさん、コメントありがとうございます。
こうして現在も『SOMEDAY』という曲が、アルバムが生き続けているコトが素晴らしいですね。
DVDでの吉野金次さんを敬う元春の態度もさすがでした。
吉野さんの復帰をサポートするためのコンサートで唄われたアコギ一本の『SOMEDAY』も良かったです。
元春ひとりでは勿論作ることの出来なかったアルバム。
さまざまな人間関係や時代背景が有機的に絡み合って出来た奇跡の一枚でした。

新曲、試聴しましたが良かったです。
クリスマスソングだし、形に残して欲しいと思います。
by 都市色 (2013-12-01 10:50) 

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