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『ラストテーマ/荒木一郎』 [荒木一郎]

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お早うございます。

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
健やかに穏やかに一年が過ぎますように。

素敵なシングルとの出会いがありますように。

という訳で、今年一枚めのシングルは荒木一郎さん。
去る一月八日は71歳のバースデーでした。
オメデトウございます。

荒木さんと云えば、処女小説作品『ありんこアフター・ダーク』が昨年の秋に遂に文庫本として復刻されました。
1984年に河出書房から出版されて30年、待望です。
僕は十年以上前に河出書房版を手に入れて読みまして、大いに感銘を受けました。
評論家の川本三郎氏もこの作品を称賛していて、今回の文庫本でも巻末で解説を担当されています。
改めて読み返しましたが、名作でした。
アメリカンニューシネマに通じる乾いた世界観、退廃の美学が好きです。

過去の荒木さんのシングルを取り上げたときにも『ありんこ~』のコトについて書いていたので、文庫本になってとにかく嬉しいです。
表紙のイラストは和田誠さんだし、最高。
この小説は荒木さんの自伝的な内容です。
東京オリンピックが開催される前の東京を舞台とした青春物語。
都会育ちの擦れっ枯らしでモダンジャズに夢中なドラマーの青年が主人公で自伝というからには荒木さんが投影されているのでしょう。
渋谷は道玄坂、百軒店にあるジャズ喫茶“ありんこ”を中心に、主人公を始めとして喫茶店に出入りするさまざまな登場人物たちの人間模様。渋谷、新宿、青山、六本木、60年代初頭のトーキョーでヤクザ、ハイミナール、ジャズの嵐の中を潜り抜けた若者たち。
興味深いのはオリンピックの前夜のトーキョーの風景として描写される、路面電車。
昨年末にNHKで放送された、はっぴいえんどの『風街ろまん』に関する特番。
あの名盤のモチーフの一つが路面電車でありました(ダブルジャケットの見開きのイラストであり、最近発売されたはっぴいえんどのボックスのアートワークでも使われています)。
松本 隆さんもあのアルバムで描きたかったのはオリンピック以前のトーキョーの風景でした。
更に言うのなら、松本さんも『微熱少年』という、60年代を舞台とした自伝小説(後にご自身の手によって映画化)を残しています。
そして奇しくも、松本さんもドラマーあがりです。
荒木さんはモダンジャズ(ダンモ)を通じて60年代前半を、松本さんはロックンロールを通じて60年代後半を、趣向と時期は微妙に異なりますが、それぞれの視点で60年代のトーキョーをスケッチしていたのですね。
荒木さんは松本さんよりも5つ年上。
両者とも、エモーショナルではなく、やや引いた視点から、クールなまなざしで俯瞰的に物事を捉えているのです。それが都会っ子純情なのでしょう。

てな訳で、話が逸れましたが本論へ。

今回取り上げるのは荒木さんの1974年のシングル『潮騒の街』。

黄金のトリオレーベル時代の第一弾アルバム『D.M.』からの収録曲。
A面曲のそれよりも、B面の『ラストテーマ』を先に取り上げましょう。
アルバムのラストを締め括る、まさに“ラストテーマ”。
しっとりと、せつなく、やさしく、美しいミディアムナンバー。
大好きです。
夜更けを過ぎても帰ってこない恋人を思いながら、一人ふらりと町へ出かけようとする男。

しとやかに、アコースティックギターのアルペジオに導かれて、“何気なく~”歌が始まり、“何気なく”歌い終わります。
そこはかとなく漂う、孤独感、そして温もり。
シンプルな言葉、そしてメロディから荒木さんの人への優しい眼差しがじわじわと感じられます。
余韻の素敵な、大人の為のラブソング。
淡々とクルーナーな歌いぶりで魅せる歌唱も素敵です。
大滝詠一さんの唄声にも少し似ていると思いますが。



後に、2001年にリリースされた、現時点出の最新作『~ONE NIGHT STAND~ BEST&BEST』では長谷川きよしさんと共演してこの曲を再演しています。


A面は『潮騒の街』。
ドラマチックに展開されるメロドラマ風な歌謡ロック。
クラビネットの印象的なイントロから激情のメロディが渦巻きます。
歌詞を読むと『ラストテーマ』の物語の後日談のようにも聴こえてきます。
恋人のもとを遠く離れて夜汽車に乗り込んで、気が付けば海に近い駅を降りていた、と。
哀愁に咽ぶ、悲しげなマイナーメロディの応酬が溜まりません。
そして鼻にかかった荒木さんの独特の歌唱に背筋が凍りつくようです。
絶望一直線。
こちらも聴き応えがあります。
物語を効果的に演出する、深町 純さんによるアレンジメントも素晴らしい。

そして、なんと、演奏時間3分54秒。

荒木さんは自作自演歌手の元祖であることは間違いないですが、シンガーソングライターという感じでもなくて、自分の思想信条を歌うのではなく、ストーリーテラーとしてまるで一本の短編映画を歌にしているような魅力がありますね。そこが俳優としても非凡な才能を発揮させている所以でしょう。

『ありんこアフター・ダーク』もドラマや映画化されたら面白いと思います。
『マイ・バック・ページ』を撮った山下敦弘監督にでも、ひとつ!

『ラストテーマ』《3A-126》〈作詞・作曲・編曲:荒木一郎〉(03’24’’)【1974】



ありんこアフター・ダーク (小学館文庫)

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  • 作者: 荒木 一郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/10/07
  • メディア: 文庫


SINGLES 1974・1976

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
  • 発売日: 2000/08/15
  • メディア: CD



D.M.

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
  • 発売日: 2001/12/18
  • メディア: CD


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都市色

>makimakiさん、niceありがとうございます。
by 都市色 (2015-01-13 01:34) 

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