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『そして、神戸/内山田 洋とクールファイブ』 [歌謡曲/70年代]

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こんばんは。
ボンヤリしていると、時間がどんどん過ぎて行って焦っちゃいます。
ブログも更新しそびれちゃいます。

ライヴをネタに記事を更新するのは、一旦置いといて。

ロック漫筆家・安田謙一氏の最新著作『神戸、書いてどうなるのか』を先月に買いました。
安田さんの出身地であり、現在も住んでいる神戸という町にまつわる108の思いつき。
初の書き下ろしエッセイ集を読んでどうなるのか、の巻。



ピントがボケる音』(2003)、『なんとかと なんとかがいた なんとかズ』(2012)の2作は音楽、映画や本を主としたポップカルチャーに関する評論集だったのですが、三冊目の著作の今回は生まれ育った町をテーマに取り上げていて、そこが今までと大きく異なります。
例えるなら、『~シンドバッド』、『気分しだいで~』とアップテンポな曲が続いた後の3枚目のシングルがしっとりとしたバラードの『エリー』って感じでしょうかって、サザンのことですよ。

音楽や映画にそれほど興味の無い方でも、親しめる内容という事で、より広く世間に安田さんの世界をアピール出来るのではないでしょうか。
最近、街歩きや散歩をテーマにしたテレビ番組もありますし。
伝え聞いたところでは、早くも重版が決まったそうで。
おめでとうございます!
これまでの二つの著書も面白いですが、今回もまた別の切り口で大いに楽しませてもらいました。

今年の夏、とある映画館のレイトショーで安田さんと奥様に偶然出会ったときに安田さんから書き下ろしの本(内容については明かせないが)を執筆中ということを教えてくださいました。
今年は残念ながらラジオの放送が無かったのですが、この本の準備に全力投球だったのですね。

安田さんの文章の世界が好きです。
なんだかのんびりとした時間の流れを感じるのです。
気負いがない。
飄々とした風体のご本人そのものの。
背は高いが、腰は低いきさくなお方。
生まれ育った町の話なので余計に自然体な感じがするのでしょうか。
軽妙な文体で独特の視点で切り取られる神戸。
スニーカーをつっかけ普段着で、住み慣れた街を闊歩する文章。

神戸というと、ハイカラで洒落た港町をイメージするのですが、
生活者として内側から見た安田さんが綴る神戸はもっと複雑な感情が滲んでいます。
好き、嫌いを通り越した感情は誰しも故郷を持つ人それぞれに持つものです。
住む環境はその人の人格に多かれ少なかれ影響を与えます。
舶来の物と、古いモノが絶妙にブレンドされた街、神戸の60年代、70年代、80年代、90年代、そして21世紀。
安田さんのポップカルチャーへの広過ぎるほどの守備範囲は雑多な神戸の街で育まれたからだと思いました。様々なジャンルの音楽や映画を分け隔てなく楽しまれる大らかさ。
そして人格の形成に影響を与えたであろう神戸、激動の時代と共に移りゆくその街並みへの想い。

時の移ろいの中で消えてしまった思い出の店、場所を軽妙な文章で記憶に刻みこんで。
過ぎ去りし時代を惜しみつつ、今の生活をどっこい謳歌されている安田さん。
様々な角度から神戸での生活を楽しんでおられるのが判ります。

♪大好きな街だから~離れられ~ない~

まさしく帯に書かれている、“ガイドブックには載らない”ディープな神戸の世界を味わうことが出来るでしょう。

コラムなのでどこから読んでも良いのは過去の二冊と同じですが、
様々なテーマの下、
見開きの2ページ毎に一本分のコラムが掲載されており。
108本、同じリズムで一冊が貫かれているのが清々しい。
2ページの、それほど長くない文章ながら話が絶妙に展開されています。

思いつくままに、これまでの著作のように、気まぐれに捲ったページから読み進めていきます。

大阪へ越してきて、京都、神戸、奈良へときどき出かけるようになりました。
どの土地も訪れる程、奥の深い文化の局面に出会えます。
歴史を紐解けば、かつては関西が文化や政治の中心であった訳で、大変面白いです。

数年前の或る年の暮れ、大変光栄なことに安田さんのお宅にお邪魔させて頂きました。
ご自宅のあるマンションの近所の、本にも掲載されている『口笛文庫』という古本屋さんへも案内してくださいました。そこで一冊マンガを買いました。
近所にこんな古書店があったらいいなぁ、というPOPで理想的な楽しいお店でした。

他にも、この本に載っているお店ではグリル一平、丸玉食堂へ行きました。ウマウマウーでした。
それから様々な中古盤屋さん。
そして、安田さんがときどき参加されるイベントの開催地としてもお馴染み、旧グッゲンハイム邸。
塩風薫る塩屋の町にある瀟洒な洋館。

神戸は海と山に挟まれた、異国情緒溢れる街。

本の終盤ではこれまで語れることの無かった安田さんの生い立ちが街の変遷と共に語られます。
エッセイの一本一本に安田さんの生活やら青春が染み込んでいるからか、
短編集のごとき味わいです。
70年代の匂いが詰まったイイ話がいっぱい。
そこでは勿論、阪神淡路大震災(1995)の事も触れられています。

最近、神戸へ行ってなかったなぁ。
また行きたいな。
今日行こう。


という訳で、ご紹介しましょう。
内山田 洋とクールファイブの1972年のシングル『そして、神戸』。
以前から記事にしたかった大好きな曲ですが、まさに好機です。
言わずもがな、本の題名はこの曲の歌詞から着想を得ていますね。
安田さんらしい頓智が効いてます。
見事。
本の中でもこの曲についての文章が書かれています。
ほんと、この曲は凄いですね。
浜 圭介氏のブルージーでやさぐれたメロディ。
振られた女の恨みつらみを爆発させた千家和也氏の作詞。
煌びやかな神戸の景色とは無縁の絶望的な世界が堂々と展開されます。
ケレン味の効いたダイナミックな森岡賢一郎氏のアレンジ。
ハードに耳へ迫ってくるファズギターのオブリガードが唸ります。
そして前川 清のエグい歌唱。
当時20代半ば、パワフルな歌唱力を遺憾なく発揮して、聴く者をねじ伏せます。

ドラマティックな歌と演奏で物語に酔いしれること請け合いです。
完璧です。



失恋から束の間でも、ウソでも癒してくれる男を求めて・・・
自暴自棄な気持ちを代弁する前川氏のクドい熱唱が夜の港町に放射され、
クールファイブの個性あふれる男たちのムーディなコーラスに包まれて、
スケールの大きな大団円を感じさせるコーダが見事としか言いようがありません。
これでもかと言わんばかりに分厚いホーンセクションがシリアスに響き渡り、ドラムが乱れ打つ。
カッコいいですよね。
この終わり方、とっても好きです。
最後に、港に佇む女を神戸の街の夜景を背景に空撮から捉えているような。

ハードでアブノーマルなムード歌謡の底力を思い知らされる名曲ですね。
これでも演奏時間は三分満たないのが意外です。
凝縮された濃厚なクールファイブ・ワールド。

B面は『君を恋うる唄』。
一転して明るいムード歌謡。
『中の島ブルース』に通じる、美しい夕焼けのような魅惑のミディアムバラード。

最後に、『神戸、書いてどうなる』の表のカバーをめくると、表紙には今回のシングルと何か関係のあるイラストが映っているのですが、それは買ってからのお楽しみ、ということでひとつ!
おススメです。
書を持って、町へ(神戸)レディゴー。

またお家へお誘いくださいませ。


『そして、神戸』《JRT-125》〈作詞:千家和也/作曲:浜 圭介/編曲:森岡賢一郎〉(02’55’’)【1972】


神戸、書いてどうなるのか

神戸、書いてどうなるのか

  • 作者: 安田 謙一
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2015/11/26
  • メディア: 単行本



なんとかと なんとかがいた なんとかズ

なんとかと なんとかがいた なんとかズ

  • 作者: 安田 謙一
  • 出版社/メーカー: PRESSPOP INC
  • 発売日: 2012/12/12
  • メディア: 単行本



ピントがボケる音―OUT OF FOCUS,OUT OF SOUND

ピントがボケる音―OUT OF FOCUS,OUT OF SOUND

  • 作者: 安田 謙一
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 単行本



ロックンロールストーブリーグ〜ステレオ! 〜これがロック漫筆 VOL.1〜(CDジャーナルムック)

ロックンロールストーブリーグ〜ステレオ! 〜これがロック漫筆 VOL.1〜(CDジャーナルムック)

  • 作者: 安田謙一
  • 出版社/メーカー: 音楽出版社
  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: ムック



すべてのレコジャケはバナナにあこがれる。

すべてのレコジャケはバナナにあこがれる。

  • 作者: 安田 謙一
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2004/08
  • メディア: 単行本



GOLDEN☆BEST deluxe 内山田洋とクール・ファイブ A面ヒット全曲集

GOLDEN☆BEST deluxe 内山田洋とクール・ファイブ A面ヒット全曲集

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2010/04/28
  • メディア: CD



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