『ジャスミンガール/佐野元春』 [佐野元春]
こんばんは。
デヴュー40周年の達郎さんのライヴを観た話は既にしました。
デヴュー35周年の元春のライヴを観た話はまだでしたね
お二人とも僕が十代のころから追いかけているミュージシャン。
共に大滝さんと縁の深いナイアガラ・トライアングルOB同志。
どちらも大阪フェスティヴァル公演を観ました。
達郎さんは昨年の12月、
そして元春は今年の3月13日。
彼の60歳のバースデイに。
《コヨーテ・グランド・ロッケストラ》なる、コヨーテバンドのメンバーを主体としながら、
ハートランド、ホーボーキングバンドのメンバーも参加しての、今回の為に組まれた編成でのバンド。
30周年の時もスペシャルなメンバーでしたが。
思うのは元春はソロで活動をしていながら、常に《バンド》を疑似的ではあるけど固執してきたという事です。
そして素晴らしい音楽仲間と活動してきたという事を常に彼自身が言葉にしています。
達郎さんもライヴでは常に固定されたメンバーとの演奏を大切されていて、《バンド》へのこだわりを感じさせます。
そしてお二人ともライヴの演奏時間が3時間半なのでした。
元春のコヨーテバンドでのライヴはこれまで少し短く感じていましたが、
今回は35周年という事でステージに出づっぱりで休息も殆ど取らず演奏していました。
ライヴの定番のナンバーは勿論ですが、これまでライヴで聴いたことの無かった曲も幾つかありました。
そして今回取り上げるシングルは、久しぶりにステージで聴いた曲でとっても印象に残ったモノです。
ハイ、『ジャスミン・ガール』。
『バッド・ガール』『レイン・ガール』と並んで【ガール三部作】と、今勝手に僕が思い付きで名付けます。
1990年秋のシングルです。
アルバム『TIME OUT!』からの先行シングルでした。
この曲は何というか、元春による女性賛歌と言っていいと思います。
大都市、または地方都市で生活して、普通に仕事に就いて日常を送っている女性たちへの普遍的なラヴソング。
元春は現在のご自身で運営しているレコードレーベルが『Daisy music』と名付けられているように《花》が大好きなので、他にもコンサートのタイトル、そして今回のように曲名に花の名前を入れたりします。ジャスミンのように香しく、健気に生きている女性。
慎ましくも気品を湛えて日々を生きる女性へのエールが歌詞に込められています。
元春の理想の女性像が歌詞に描かれているのでしょう。
親しみ深いメロディラインも魅力だし、元春の歌声も明快。
70年代風なシンプルかつ温かいハートランドの演奏に乗って。
エンディングのハーモニカの響き(元春が吹いているのだと思います。)もグッときます。
派手さは無いですが、洗いざらしのシャツ、履きなれたスニーカーのように心地よくフィットする颯爽とした、素敵な曲です。
このアルバム辺りから元春のソングライティングの視点がより日常的なモノにシフトしていると感じられます。
それは近年のアルバム『THE SUN』(2004)に収録されている『希望』という曲でも顕著です。
俺はありふれた男
と、市井の人々を彼なりの距離感でスケッチしています。
今回のツアーではこの曲を披露するときに、
長年応援してきたファンに対して、
「いつかどこかで、僕の曲を発見してくれて、僕を支えてくれたみんなに、感謝したいと思います。女の子たちは、学生服の人もいて、男の子たちは、似合っているんだか似合っていないんだか分からない服を着て、僕のロックンロールに夢中になって、歌ったり踊ったりしていた。それは奇跡だと思います。いろんなことがあって、生き抜いて、どうにかサヴァイヴしてきた。そのことをみんな、もっと誇りに思っていいと思うよ」
と元春はコメントしていました。
平凡な人生、普通の生き方、と簡単に言い切ることが出来ない位、今を生きるコトは大変なんだと思います。
山田太一氏の素敵なドラマじゃないけど、『ありふれた奇跡』の連続の果てに僕らは生きているのだ、とときどき思います。
元春による女性賛歌はアルバム『ZOOEY』(2013)の『スーパー・ナチュラル・ウーマン』にも受け継がれていますね。
そう云えば、あまり関係はないのですが、よくペットボトルのジャスミン茶を飲みます。
カップリングは『空よりも高く』。
アルバム『TIME OUT!』の最後を飾る曲でもありますが、オリジナルは7分近くの長尺の為、シングルでは少し短くエディットされています。
一人の男が、真夜中に車を運転している。
どうやら家路に向かう途中で遠い距離を走っている。
その道すがらの物語。
シンプルなフレーズが続く、淡々とした展開のミディアム調の内省的な作品。
“家へ帰ろう”という歌詞のリフレインが深く、じんわりと響いてきます。
ハートランドの緻密で静謐を湛えた確かなアンサンブルも聴きどころだと思います。
この曲を初めて聴いたのは彼が当時担当していたラジオでした。
月曜から木曜日までの25分ほどの帯番組でした。
アサヒビールがスポンサーの『TASTY MUSIC TIME』という番組名で。
最初に聴いたときの印象はビートルズの中期のような、ジョン・レノンが作りそうなシンプルな曲と言うイメージでした。
真夜中を舞台にしたバラード調の長尺の作品という事で、初期の作品『ハートビート』も髣髴させます。
あの曲の登場人物、小さなカサノバが時を重ねて30代くらいになったら、という設定で聴いてみるのも面白いと思います。
この歌の主人公は無事に帰宅できたのでしょうか。
この曲も地味ですがとっても美しい曲で聴けば聴くほど味わいを感じます。
またライヴで聴いてみたいです。
上記の二曲を収録したアルバム『TIME OUT!』はハートランドとがっぷり組んで、しかもアナログレコーディングで録音されました。この年、元春はデヴュー10周年でした。
それにしてはやや地味な内容かなと思いました。
内省的なサウンドは『ヴィジターズ』『カフェ・ボヘミア』そして『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の三作が、グローバルで社会的な事象を追っていた事への反動でしょうか。
あの当時、社会主義の崩壊やバブル経済の終焉、そして昭和から平成へと、大きな時代のうねりを感じていました。
その変わり目を観察眼の鋭い佐野元春は見抜いて、『タイムアウト!(小休止)』と慌ただしい世情の流れから距離を置いたアルバムを作ったのかもしれません。
打ち込みのダンスミュージックやハウスが流行っていたデジタル時代に敢えて逆行するような、そしてアルバム全体もシンプルなバンド編成で曲調も穏やかで地味な感じでした。
また当時はバンドブームでありましたが、それらの若さに任せたビートの強いタテノリのサウンドでもありませんでした。
ジャケットもモノクロームで撮影された元春のアップの写真でしたし。
このアルバムで敢えて自分のスタンスを整えたからこそ、次作の『SWEET 16』、そして『THE CIRCLE』というハートランドとの充実した傑作を生み出すことが出来たのだと今は思います。
この三作を以って、長年ライヴやレコーディングを共にしたバンドと袂を分かちます。
最後に、
『TIME OUT!』はアナログ・レコーディングで製作されたのだから、レコードで聴いてみたいとずっと思っているのです。
アナログ盤が再評価されているので今こそレコードで再発して欲しいなぁと切望しています。
『ジャスミン・ガール』《MFCDS4 》 〈作詞・作曲・編曲:佐野元春〉 (03’43’’)【1990】
EPIC YEARS THE SINGLES 1980-2004
- アーティスト: 佐野元春
- 出版社/メーカー: Sony Music Direct
- 発売日: 2006/06/28
- メディア: CD
35周年ライヴ、素晴らしかったですね!20周年の時よりも30周年の時よりも長く濃密でバラエティに富んだ楽曲揃いで盛りだくさんでした。元春の声は30周年の時のほうが出てたかなぁ、とは思いましたが。それにしてもコヨーテバンドとの作品もここまで完成度高くなると、次はどこへ向かうのかという不安半分・楽しみ半分といった感じです。
「ジャスミンガール」も「空よりも高く」も、一見地味ながら良い佳曲揃いのアルバムでしたね、タイムアウトは。バブル真っ盛りの時代にこんなモノトーンなアルバム出すところがいかにも元春らしいです。是非、アナログ盤でも聴いてみたいです♪
by いとぞう (2016-05-13 09:46)
>いとぞうさん、コメントありがとうございます。
35周年ライヴお世辞抜きに良かったですよね。
現在のライヴでもキメでステージでスライディングする姿、カッコいいです。
アニヴァーサリーという事で他にも作品のリリースが予定されていると聞きました。楽しみです。
TIME OUT!の曲では『僕は大人になった』もコヨーテバンドでのライヴではよく演奏されますね。
またツアーをして欲しいです。
by 都市色 (2016-05-14 07:55)