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『彼女の隣人/佐野元春』 [佐野元春]

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こんばんは。
久しぶりと云う感じで元春のシングル『彼女の隣人』。
聴く程に胸を打つ、バラード。
真のソウル(魂)ミュージック。
これは僕の元春の数あるシングルの中でもベストに入る作品です。
このシングルも丁度11月の下旬にリリースされたと思います。

♪夜にまぎれて 街をあるいてゆく
 風の温もりに 逆らって

八方ふさがりの絶望と孤独に苛まれた夜に救いの手をそっと差し伸べてくれるような神聖な音楽。
70年代のニューソウル運動からの影響を彼なりに昇華させた作品とも思えます。
カーティス メイフィールド、マーヴィン ゲイ、ダニー ハサウェイら魂の聖人たちの音楽に通じるスケールの大きな音楽。
80年代初頭の元春の歌には夜の街の自由な空気感を歌った曲が多いですが、ここまで絶望に充ちた夜の歌はあまり無かった気がします。絶望も若さでかき消していたのかもしれませんが、成長するにつれて、若さを失うにつれて無数の有形無形の傷達が心を覆っていき、傷を隠しきれなくなって哀しみに足下を阻まれてしまいます。
そんな瓦礫の中にゴールデンリングを再び見いだす歌。
そういう意味では『ROCK & ROLL NIGHT』に通じるかも。

この歌は元春が自身の妹さんを元気づける為に作られた曲と言われています。

80年代から90年代前半までライヴにレコーディングに苦楽を共にした盟友バンド、ザ・ハートランドとの最後のアルバム『THE CIRCLE』【1993】のレコーディングは恐らくこの作品から始まったと思われます。前作のヒットアルバム『SWEET 16』【1992】のリリースから半年後の、リリーススパンの短い、次作へのプレリュードとなるシングル。
今聴き返すと、元春のヴォーカルにはやはり疲労感が漂っている気がします。
ハードなレコーディングやツアーに明け暮れて、クリエイティヴにスパークする精神と酷使し続ける肉体に乖離が見られ始めたのかもしれません。
キーの高い歌が歌いにくくなってる気がします。
しかし、喉を振り絞って歌う姿、その傷だらけの唄にリアリティがあると思います。

♪Don' cry 憂鬱な時は
 Don' cry 夜を超えて
 Don' cry 連れて行くよ sea of love

“DON’T CRY”のフレーズの重なりにメッセージの重みを感じます。
そしてハートランドの卓越したサウンドの表現力の確かさも聴き逃せません。
硬質な音響の果てに慈愛の輝きが降り注ぐような…。
長田 進氏の間奏のギターソロも名演ですね。夜空の星達へ救いを求めるように届くように自由に舞うフレーズ。
そして、メロディ セクストン、マクシャンヌ ルイス両女史の、のソウルフルなバッキングヴォーカルがさらに曲に威厳を深めています。
シリアスでハードなアルバム、『THE CIRLE』は改めて現在聴くとさらに深い共鳴を憶えます。
アルバム全体としても70年代のサウンドへの深い理解を感じます。
時代は当時バブル崩壊でした。今再びバブル後のように不穏な空気を帯びています。
1993〜4年の元春のライヴツアーに同行した山本智志氏による『ワン フォー ザ ロード』というクロニクル本を読むとさらにこの時期の元春とハートランドと時代の空気感を読み取ることが出来ます。

カップリングは『レンボー イン マイソウル』。
名作『SWEET 16』を代表する名曲。
これは日本のポップスのスタンダード『サムデイ』に通じる世界観ですね。
若かりし頃のイノセンスは決して現在でも色褪せずにポジティヴに自分の精神のどこかで燃え続ける。

♪無くしてしまうことは/悲しいことじゃない



バンド、ハートランドの成熟した演奏がピークに達しています。
間奏のダディ柴田氏のサックスソロも『サムデイ』を彷彿させ、朝陽のように輝かしい。
この曲は、アルバムのリリース前に開催された1992年の「SEE FAR MILES TOUR PART 1」でも披露されて新曲として大変人気を博しました。この曲を聴いて新作への手応えをファンも元春も強く感じ取ったのではないでしょうか。1992年は元春&ハートランド、そして彼らのファンにとっても忘れられないビッグイヤーでした。

希望にまつわる名曲の最強のカップリング。

♪どんなものも Don't cry 変わり続ける (彼女の隣人)

♪時は流れていても 何も変わらない (レインボーインマイソウル)

全く正反対の歌詞がならびます。
絶望の闇に一陣の光明を探す歌。
七色の希望につつまれたような輝きの歌。
『SWEET 16』『THE CIRCLE』の二枚のアルバムが表裏一体であることを感じさせます。
16才のような若さの円還。


『彼女の隣人』《ESDB 3345》〈作詞・作曲・編曲:佐野元春〉(6’01’’)【1992】

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いとぞう

素晴らしいですね。
絶望の中にこそ希望を見出す、この世界観。どうしようもなく打ちひしがれている時に聴くとたまらない気持ちになります。

このシングルは「約束の橋」がドラマ主題歌として絶賛大ヒット中の時、ひっそりとリリースされましたね。そのせいか、あまりヒットしませんでした。この曲を初めて聴いた時から震えるほど感動したので、この結果には「タイアップがあるか、無いかだけでこんなに違うものか」とガッカリした覚えがあり、もっと多くの人に聴いてほしい、と思ったものです。
この時からすでに元春は次の「The Circle」でのソウル・R&B的なモノに向かって走り出していたんですね。

先頃、引退した野茂投手がこの曲が大好きだ、という話を聞いたことがあります。♪Don’t cry no more のところを ♪Don’t cry 野茂~、と解釈してるのかな?なんて思ったりして。そんな訳無いか・・

「レインボー・イン・マイ・ソウル」も大好き。アルバム「Sweet16」発売前にラジオでこの曲を聴いた時、今度のアルバムは絶対イイものになる、と確信しました。
by いとぞう (2008-11-15 20:38) 

都市色

>いとぞうさん、こんばんは。
コメントありがとうございます!
「彼女の隣人」、良いですよねー。
ライヴで聴いてもじーんときます。

元春と云えばNHKサウンドストリートの当時のオンエアが公開されていますね。感激です。当時はリアルタイムで聴けなかったので。
今と殆ど変わらないですけど、向こう見ずで若いですね。

by 都市色 (2008-11-16 20:58) 

DEBDYLAN

ご無沙汰してます^^;

この2曲、どちらも大好きです。
特に「彼女の隣人」が。

♪ありったけの~~♪

このリフレインが印象深くて。

繰り返される言葉の最後に穏やかだけど力強いトーンで歌われる。

♪君と歩いてゆく♪

心に響きます。

by DEBDYLAN (2008-11-25 21:42) 

都市色

>DEBDYLANさん、こんばんは。
コメント&NICEありがとうございます。
音楽への強い愛情をもつDEBDYLANさんからお誉め頂き嬉しいです。
「彼女の隣人」は強く胸に響きますよね。
サビのリフレイン、沁みますねぇ。
by 都市色 (2008-11-26 21:02) 

うっち

大好きな曲であるとともに、横浜アリーナのライヴでこみ上げるものがあって一部歌えなくなったのが強烈な印象として残っています。

by うっち (2008-11-26 21:11) 

都市色

>うっちさん、こんばんは。
コメント&NICEありがとうございます!
あまり感情を表に出さない元春が泣くというのはファンにとってもグッときますよね。

by 都市色 (2008-11-27 00:59) 

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