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『キラリ君と波〜 story of my 80's / 高橋ひろ』 [高橋ひろ]

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こんばんは。
最近は体調の不具合や仕事が立て込んでしまって、思うようにブログを更新出来ませんでした。
だからってどうと云うコトはないのですが。
それから,アニソン特集と予定してましたが思うところあって、
違う内容にします。
という訳で,高橋ひろさんです。

前回の記事では鈴木祥子さんの新宿タワレコでのイベントのお話をしましたが、
そのイベントの後、かけつけたのが、虎ノ門のポニーキャニオン本社内で開かれたひろさんのベスト盤リリース記念イベントでした。
祥子さんのイベントは午後一時から、ひろさんのは二時からでしたので大変でした。
なんとも嬉し忙しなスケジュール。
なんとかひろさんのイベントにも間に合いました。

ベスト盤のリリースを記念して、ひろさんの当時の音楽活動に関わりのあった方々によるトークショウとひろさんの秘蔵のライヴ映像公開と云う盛りだくさんのイベント内容でした。
全国各地から集まったと思しきひろさんファンの見守る中、ベスト盤を監修された当時のディレクター、池畑伸人氏を始め数名の関係者からのお話は、終始和やかにひろさんの想い出話満開。
その中で、7、8年前にひろさんがニッポン放送でのプロ野球中継のでのオープニングテーマ&ジングルを担当したときの放送関係者S氏がその当時のお話を語られていました。
ひろさんはS氏と同世代で、大の野球ファンであり、ラジオフリークと云うコトでテーマソング制作は大いに意気投合されたそうです。その音源は今も一部ラジオで使用されてるそうです。
そしてプロ野球中継の音楽での仕事から数年後の夏、S氏の元へひろさんから小包みが届きました。
便せんの手紙と共に一枚のCD-Rが添えられて。
ひろさんの暑中お見舞いの直筆の手紙と、CD-R。
その中身とは、今回取りあげるひろさんのシングルの中の二曲でした。。

前置が長くなりましたが,今回ご紹介するシングルはひろさんの遺作となる『キラリ君と波〜story of my 80's』。ひろさんの死後、約一年半後に《TTレーベル》というひろさんの個人レーベルから自主制作盤でリリースされました。

一曲目はタイトルソングの『キラリ君と波〜 story of my 80's 』。
この曲がS氏に贈られたCD-Rに入っていた曲のひとつです。
お聴きになられた方はお分かりですが、桑田佳祐/サザンオールスターズの曲調を意識した内容に驚きます。これは盗作ではありません。見事なほど完成度の高いパロディ/パスティーシュです。桑田さんっぽいメロディなのだけど,彼の既成の楽曲のメロディラインをなぞった物ではありません。
歌唱方法も桑田節を意識した感じで、明瞭な唄い方をするひろさんが意図的に口を歪めて唄っているようなイメージが浮かんできます。
パロディと申しましたが、単にコミカルでお手軽な感じではなく、とても美しいバラードに仕上っていおり、ひとつの作品としても成立してしまうほどの良い出来で、ひろさんらしいです。
唄い出しの歌詞も凝ってます。
 
♪桑田の唄う去年の夏が 20年前の夏になった〜

この〝去年の夏〟とはサザンの名バラードのひとつ『OH! クラウディア』(1982)を意識しているのは明らかです。この曲の唄い出しの歌詞は

♪恋をしていたのは去年の夏の頃さ〜

です。そして『キラリ〜』もこの曲と同様、ピアノの弾き語りで歌が始まりすし、唄い出しのキーまで同じです。
『キラリ〜』という曲は歌の主人公が20年以上も前の80年代に過ごした自身の青春時代を振り返る内容で、その歌詞には広島カープの名スラッガー、山本浩二さんの現役最期の打席をラジオ中継で聴くと云う下りもあったり、山下達郎さんの「BIG WAVEのテーマ」(1984)の歌詞も織り込まれてたり、80年代前半〜中期のの夏のムードが鮮やかに蘇って来るようです。
野球やラジオや音楽がお好きだったひろさんの思いが歌詞に込められてます。
僕はその頃と云うと小学生〜中学の頃ですが、何となく懐かしく感じられます。
この曲をひろさんが作ったのはニッポン放送での野球中継の音楽を手掛けたことがきっかけだったのだとイベントに参加して判りました。S氏へのシンパシーと80年代の青春を作品に残したのですね。
ただ単にサザンのパスティーシュを作ったのではなく、80年代前半のあの雰囲気を音でパッケージするにサザン風な音楽がお誂え向きだと云う意図も当然あると思います。
極めて作家的なアプローチ。
そしてサザンのサウンドを換骨奪胎しながらも最終的には高橋ひろならではの作品に仕上げてしまう手腕は見事としか言いようがりません。
桑田さんの楽曲の文体を解析/再構築してサザンと似て非なる曲を生み出しました。
僕は『TSUNAMI』より『キラリ君と波』の方が好きです。


二曲目もS氏へのCD-Rに入っていた曲で、『手紙』というタイトル。
飯室 博氏の繊細なアコギの演奏をバックに唄われる耽美的なバラード。
この作品も実に興味深いです。
サビでのフレーズ

♪いつか君にあげた手紙に/置き忘れた僕の夢詰まっていたら/送り返してくれないか
 面倒だろうけど/今それが必要なんだ

この歌詞での《手紙》がひろさんのヒット曲「太陽がまた輝くとき」の冒頭のフレーズ

♪手紙が届いたら/封を切らずに/そっとしまっておいて

を思い出したファンも多いと思います。
若かりし頃に綴った手紙に込めた熱い思いが、日々の徒労の生活によっていつしか色褪せてしまう。
憂いを帯びたひろさんのファルセット、誰しもが体験する生きることの困難が滲んでいるようです。

♪馴染めぬまま 慣れてしまった仕事も二年

というフレーズもとても切実に響きます。

三曲目は「time」というインストゥルメンタル。
歌モノが主なひろさんには珍しい作品。
ここまでの2曲、そしてこの3曲目も「過ぎ去りし時間/時代」がこのひろさんのシングルのテーマ様な気がします。
インスト曲と云っても内容は濃いです。
時計の針の音をモチーフとした不穏なサウンドに時報や天気予報、または懐かしのテレビドラマのダイアローグやコマーシャルソング、そしてひろさん自身の肉声のサンプリングがコラージュされた不思議な楽曲。サンプリングに使用されたテレビドラマらしきダイアローグの出典は分かりませんが、70年代っぽい感じがします。存知の方はおしえてください。曲の終りで不意に聞こえてくるコマソンの「不二家チョコレートスナックピッキー」についても御一報を。
「キラリ〜」以上にひろさんのディスコグラフィの中でも異色の内容。
輪郭のハッキリした明確なメロディやサウンドを信条とする楽曲がこれまでの高橋ひろっぽさとするとこの曲は高橋ひろらしく無い曲かもしれません。
かといってこの作品がつまらないかと云うとそんなことは無くて、ドラマのサントラのように豊かにイメージを喚起させる魅力があります。
ひろさんの音楽性の高さ,幅広さを感じます。
この作品をどのような思いで創ったのか気になるところです。
少し異端でシリアスな内容に伺い知れない彼の心の闇を覗いたかのようなサウンドとは言い過ぎでしょうか。

四曲目、最後の曲は「静寂」。
ピアノの弾き語りの美しいバラード。
この曲もテーマも「時間」で年齢を重ねるに従い、時間が驚くスピードで過ぎてゆくことへの戸惑いを告白しています。
そして歳とともに影のように伸びて付きまとう拠り所なき孤独感。
違和感を覚えつつも前を向いてマイペースで進んで行こうとするひろさんのひたむきな思いにじーんとします。
彼方から控えめに聴こえてくる盟友、佐藤宏信氏のサックスが朝日のように爽やかです。

そういえばライヴのときによくひろさんが語っていた人生時計の話がありまして。
人生を一日(24時間)に例え、自分の年齢を3の数字で割り算をしてその数字を時計の時刻になぞらえる。亡くなられたひろさんの時刻はお昼過ぎだったろうか。
旺盛なクリエイティヴィティを発揮されたシングルを聴く度にまだ早すぎると思わざるを得ません。

“何が起きたかも/まだ知らされぬうちに/ゆるやかに時は/絵筆を振りかざす”

四曲入りのシングルながらコンセプチュアルな内容。
時の過ぎ行く儚さとイノセントの行方。
これはひろさんの「ペットサウンズ」かも。
此の最期のひろさんのシングルを初めて聴いた時は,ショッキングな内容に感じられました。
素晴しい内容だけれど、聴くのは少しの勇気が要りました。
詳細は述べませんがひろさんが死を覚悟していたようなこのシングルの構成に心臓をキリキリ締め付けられるようでした。

ひろさんの訃報から早、5年。シングルのリリースからも三年。
そして先日の楽しいイベントを体験しまして、多くの熱心なファンの間でいまも元気に生き続ける高橋ひろを心に刻むことが出来て,今回のシングルのレヴューに踏み切りました。
一人でも多くの音楽ファンにひろさんの音楽を、このシングルを知って欲しいと思います。
この作品は〝高橋ひろ応援団〟というひろさん公認の私設サークルを通じて販売されています。
お問い合わせは代表の毛塚たもつ氏まで。 
 
高橋ひろオフィシャルサイト: http://takahashihiro.web.fc2.com/info.html

毛塚たもつ:  ks-works@xc4.so-net.ne.jp

そういえば、トークショウから情報では三月に発売されたベスト盤がなかなか好調なセールスを記録しているそうです。CDとしてのセールスもさることながら,ダウンロードでのセールスも10万件を突破したとか。嬉しいですね。これはひろさんの音楽の普遍性を物語ってますね。
こういうファンイベントはこれからも開催される可能性も高いとか。
楽しみです。

次回こそはアニソン特集です。

『キラリ君と波〜 story of my 80's 』《TTCD-00003》〈作詞・作曲・編曲:高橋ひろ〉(04'36'')【2007】


高橋ひろ ベスト・コレクション

高橋ひろ ベスト・コレクション

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2010/03/15
  • メディア: CD



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コメント 13

いとぞう

貴重なシングルなんですね。
ひろさんも80年代への思い入れが人一倍、強いようで嬉しいです。
サザン風サウンドが、ひろさんの手によってどんな風に仕上がったのか、聞いてみたいです!
by いとぞう (2010-05-10 21:56) 

チコタマ

人生時計のお話をされていたのは知りませんでしたが
「time」を初めて聞いたとき、人生時計を作られているようだと
強く感じていました。
とても息苦しくなったのを覚えています。

ラジカセが登場する前は、カセットレコーダーでなんでも録音し
雑音が入るのをとても嫌いました。
「100円あげるから静かに」って、当時の子供レートからすると
物凄い集中力を要して録音しておられたことになりますね。(笑)
by チコタマ (2010-05-13 00:30) 

都市色

>いとぞうさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
この作品はひろさんの作品を沢山触れてから聴くとより、味わい深さが増すと思います。
ひろさんの歌詞もすばらしいです。

by 都市色 (2010-05-13 09:30) 

都市色

>チコタマさん、こんにちは。
ご無沙汰です、コメントありがとうございます。
「time」という曲はひろさんの頭の中をのぞいているような気分になりました。
ひろさんの録音した様々なテープを聴いてみたいですねぇ。
興味深いです。
by 都市色 (2010-05-13 09:32) 

ちゃる

初めまして。
You tubeで「不二家ピッキー」と検索すると
77年フラッシュニュースの動画が現れます。
その動画の5分31秒あたりでCMが流れます。
歌は、はっぴいえんどの鈴木茂さんらしいです。
by ちゃる (2010-05-17 16:14) 

都市色

>ちゃるさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
YOU TUBEでチェックしてみました。
懐かしい感じの70年代の映像に紛れてありました!
「とっびだせぇ〜ピッキー!」
感無量です。
心のつかえがとれました。
なかなか面白いCMですね。
鈴木茂さんが唄っていたのですねー。
そう云われてみると茂さんの声に似てます。
曲も作ったのでしょうか。
貴重な情報にも感謝です!
これからもよろしくです。
by 都市色 (2010-05-20 07:07) 

ちゃる

都市色さま、見つけたので誰かに教えたくてメールしました。
諦めず捜してみるものですね。喜んでいただけて幸いです。

「不二家ピッキー 鈴木茂」と検索するといろいろ出てきます。
糸井重里さんの記事で鈴木さんが手がけたことを知りました。

はっぴいえんど、糸井さんに繋がるのがなんだか
ひろさんらしい気がしますね。
by ちゃる (2010-05-20 11:33) 

ちゃる

たびたびすみません。補足です。
「不二家チョコスナックピッキー」作詞作曲 鈴木茂
糸井さん(日刊イトイ新聞の記事です。)で確認できます。

 

by ちゃる (2010-05-20 11:41) 

こっこ

ベスト取り寄せてからずっと聴いてます。そしてアルバム3枚をヤフオクで買いました。教えて頂きありがとうございました。
どの曲も本当に素晴らしいですね。
by こっこ (2010-05-21 00:27) 

都市色

>ちゃるさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
「イトイ新聞」の記事読ませてもらいました。
興味深い内容で、教えて下さってありがとうございます!
70〜80年代の音楽も面白いですよね。
ひろさんのバックグラウンドでもありますし。
彼の音楽背景に思いを巡らすのも楽しいですね。
by 都市色 (2010-05-23 10:39) 

都市色

>こっこさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
ひろさんのベスト盤、気に入って頂けたようでなにより。
それが一番嬉しいです。
有り難うございます。
オリジナルアルバムの方も早速揃えられたのですか。
いいですね。
あの三枚にはひとつの捨て曲もない程の素晴しい内容であり、
聴けば聴く程楽しめることと思います。
またそれぞれの感想をお聞きしたいです。
by 都市色 (2010-05-23 10:45) 

まてっち

久しぶりにきらり君と波を聞き、試しに検索してみたらこちらにたどり着きました。
17年ほど前から、アルバム3枚を時々聞いています。今でも車にCDが積んであります。
アラフォーとなった今では、青春を懐かしむ曲となりつつありますが、何度聞いても飽きないですし、若い頃とは違った味わいも感じています。
地方在住のため、イベント等参加できなかったのが残念ですが、作品の背景など聞けてうれしいです。
山下達郎さん、佐野元春さんなども好きなので、これからも読ませていただきますので、よろしくお願いします。
by まてっち (2013-09-28 00:15) 

都市色

>まてっちさん、はじめまして。
コメントありがとうございます!
ひろさんの音楽は古くならないですね。
完成されたポップスですね。
歌謡曲やアメリカンポップスを見事に自身の音楽に昇華しています。
以前、イベントに参加したときにスタッフの方が、是非また開催したいとおっしゃっていました。
その言葉を信じて待ちたいです。

達郎さんや佐野さんの記事もこれからも書いていく予定です。

自己満足なブログですが、
これからもどうぞよろしくお願いします。

by 都市色 (2013-09-29 02:39) 

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