『KIRINJI ep /キリンジ』 [キリンジ]
こんにちは。
久しぶりにキリンジを取り上げましょう。
名うての堀込兄弟(高樹・泰行)による双頭ソングライティングユニットが遂に袂を別つ日が参りました。
三月に発売された最新作『Ten』を引っさげての全国ツアー千秋楽のNHKホール公演を以って堀込弟氏が脱退。
去る12日のコトです。
脱退のニュースを知ったときは、遂に来たか・・・、と言う気分でした。
いつかこの日が来るのかもしれない、と思っていましたけど、実際知ったときはやっぱり動揺しました。
僕は4/5の大阪公演を観てきました。
キリンジのライヴを観るのは実に10年ぶりでした。
最後に観たのは日本武道館公演。
アルバム『For beautiful human life』リリース後のツアー。
僕はこのときのライヴが第一期キリンジのピリオドだと認識しています。
インディーズデヴュー以降、堀込兄弟と敏腕プロデューサー冨田恵一氏とのタッグ体制の終焉としての。
続きまして、コロムビアレコードに移籍後のセルフプロデュース体制による第二期が始まりました。
お互いのソロ活動も始まった頃です。
そんな第二期キリンジが、先日のツアーを以って終了しました。
基本として兄弟それぞれが独立したソングライターでありセルフプロデュースの才能を持ち合わせていました。
プレイヤーとしても歳を追うごとに成熟を重ね、それぞれが確固とした音楽スタイルを形成。
そのスタイルが完璧であるが故、二人が目指す音楽活動の理想型にいつのまにかズレが生じてきたのでしょうか。
各々の活動を気兼ねなく自由に羽ばたかせる手段としての発展的なコンビ解消。
それはキリンジ(麒麟児=優れた才能を持つ若者)というバンド名を冠した彼らの自然で幸福な帰結だったのかもしれません。
弟氏はこれまで断続的に活動していたソロ活動に専念。
兄氏は従来どおりキリンジの屋号で活動を継続。
新しい旅立ちの春が始まります。
僕が見届けた兄弟としてのキリンジの大阪公演。
10年ぶりに観たライヴだったかもしれませんが、とにかくレベルアップしたパフォーマンスを終始漲らせて、三時間半を突っ走った、という印象です。
輝ける17年間を俯瞰する充実のセットリスト。
名曲に次ぐ名曲。
名演に次ぐ名演。
最後のツアーだからと言ってこんなに長時間演奏するとは思っていなかったし、その質の高さにも驚きました。
完成度の高いオリジナルアルバムを凌駕するほどの。
特に、弟氏のヴォーカリストとしての才能と成長を改めて感じました。
ホールにどこまでも響き渡る瑞々しく涼しげな歌声。
CDで聴くよりも痺れる生歌。
お別れの感傷的な空気を断ち切って、全力で最高の演奏をファンに楽しんで貰おうとする兄弟の誠意に心を打たれました。
集中力の高まった歌と演奏、そしてその合間の一転してユーモアに満ちたMC。
キリンジはMCも独特のセンスを持っていました。
打てば響く、軽妙なやり取りはライヴのお楽しみでもありました。
ここまで質量共に完璧なパフォーマンスで魅せられては降参です。
あとは兄弟の晴れの門出を笑顔で送るしかないです。
と、云うわけで前置きが長くなりましたが、キリンジの処女作を取り上げましょう。
1997年にリリースされた4曲入りのインディーズ・デヴュー・シングル。
この前年にクラブキングによるフリーペーパー、ディクショナリーの付録のカセットテープに、“ホリゴメズ”名義で音源を発表しました。このテープ、僕は今でも持っています。
あらためてこのシングルを聴きなおして、いや、聴かずしても判るのですが、キリンジはすでにキリンジなのでした。
このシングルと同時期にリリースされた、かせきさいだぁのシングル『午後のパノラマ 』を聴いて、とてもイイ曲だなぁと思ったのですが、その作曲者が堀込兄氏でした。
それからキリンジに興味を深く持ったのだと記憶してます。
この四曲入りのシングルから冨田恵一氏は関わっています。。
一曲目『風を撃て 』。
作詞作曲は弟氏。
キリンジの名刺代わりのポップチューン。
つむじ風が巻き上がるような、兄弟のハーモニーのイントロ。
物語はここから始まりました。
70年代風のフォーキーなアメリカンロックの疾走感のあるサウンドとMPBのようなサイケで不思議なメロディアス感が交じり合ったまさにオルタナティヴな息吹が感じられます。
アグレッシヴなギターサウンドも吹き荒れて。
非エモーショナルでクールな情感を湛えた弟氏の歌声も衝撃的でした。
この1曲でハートを持っていかれます。
今の歌声と比べると若いって感じですね。
二曲目は『野良の虹 』。
作詞作曲は兄氏。
この曲もキリンジの代表曲の一つ。
AORのメロウネスがムーディに揺らめくミディアム名曲。
特にサビでの雄大な旋律の展開に圧倒された記憶があります。
シニカルな言葉遊びに興じる歌詞との相性もバッチリ。
さらに大サビで登場する兄氏のヴォーカル。
兄弟だから似ていますね。
ドナルド・フェイゲンのヴォーカルの様な爬虫類テイストに奇しくも通じてる気が。
サビの歌詞にて ♪ 流星のイレズミをまぶたに刻め というフレーズは詩人の吉増剛造の「燃える」という詩から影響を受けたという旨を、『佐野元春のソングライターズ』で彼らがゲスト出演したときに発言しています。
天下御免の文盲な僕にとっては目から鱗の情報でした。
これを指摘した元春はさすがだなぁと思いました。
上記の2曲はメジャーでの1stアルバム『Paper Driver's Music』に再録版も収録されています。
そして今回のライヴにて、序盤に続けて演奏されました。
三曲目は『水色のアジサイの上 』。
弟氏の作詞作曲。
浮遊感のあるメロディが印象的なムーディなワルツ。
午睡をむさぼるような気だるさと心地よさ。
印象派のポップソング。
四曲目は『茜色したあの空は 』。
小気味よく、朗らかなカントリーロック。
オルタナカントリーへの共鳴。
弟氏によるペンかと思いましたが、兄氏によるもの。
大阪公演でのアンコールのラストで歌われました。
♪ 喉越しのいい涙で 最後のお別れできたらいいさ
というフレーズが心に染み入ります。
さらに同じく兄氏のソングライティングによる『もしもの時は 』にメドレーでつながる大団円。
大盛況でコンサートは幕を閉じました。
堀込兄弟のソングライティング、非凡な音楽センスがたった4曲で確証出来ます。
ポーカーフェイスで切り札を交互に切りまくりです。
冨田恵一氏の色彩豊かなアレンジメントのバックアップも万全。
そして四曲目の後、約一分ほどのインターバルを置いて、シークレットトラックの『好きさと放ってすぐに』が始まります。
ダメ押しともいえる名曲と言う名の追加点。
文語体の言葉使いを巧みに歌詞にはめ込む面白さ。
彼らの音楽はXTCのように、音楽的に難しいことをやってるんだろうなと思わせつつも鼻歌の如き軽やかさで耳に馴染んでくるのです。
兄氏がナムコで働いていた時代に作曲した、スーパーファミコンソフト『スーパーファミスタ4 』用のBGMがモチーフでもあり、後に『癇癪と色気 』と改題されて、メジャーでの2ndシングルに収録されます。
以上、彼らの希有な存在感を颯爽と十二分にアピールするマキシシングル。
この当時は渋谷系ムーヴメントが下火になってきた頃。
流行に乗じて、アマチュアリズムを押し出した稚拙なバンドが幅を利かせ始めた頃に、それらを駆逐一掃するような音楽の閃きに満ちた兄弟の登場は必然だったのかもしれません。
キリンジが凄いのは自己模倣に陥ることなく、飽くなきソングライティングの高みを求めてチャレンジを続けている点です。その姿勢は最新作まで変わっていません。
勿論、ファンの嗜好意識はしつつ。
歌詞も初期の言葉遊びのような歌詞から徐々にメッセージを含んだものにシフトしていきました。
だからと言って直情的で安易なJ-POPのクリシェに頼ることなくセンス・オブ・ユーモアを駆使して。
彼らの発想の豊かさ、語彙の豊富さには舌を巻きます。
流行り廃りの激しい音楽業界の中で、阿漕で胡散臭い世界に交わることなく、独特の歩みを保ちながらメジャーレーベルでサヴァイヴし続ける彼らの逞しさ、潔さ。
そのしなやかで強靭な美しい音楽スタイルは誰にもまねの出来ない唯一無二のモノ。
ニッポンのポップスの生ける良心であり至宝。
彼らの音楽は有形無形に日本のロックシーンに影響を与えていると思います。
二人ともまだ40代の働き盛り、豊かな音楽性は進化/新化/深化の過程にあります。
名残惜しさは絶える事はないのですが、同時にこれからの展開が楽しみで仕方ありません。
弟氏はソロユニット“馬の骨”を続けるのか、それとも・・・。
そしてバンドの顔とも云えるヴォーカリストを失った兄氏が企てる新体制でのキリンジはどうるのか?
新しい物語への興味は尽きません。
ただ一つ云えることはキリンジと同時代に生まれたことへの感謝であります。
For Beautiful Music Life.
世知辛い21世紀を生きる我々の健やかなリスニングライフへの多大な貢献に感謝!!
『風を撃て 』《NATURAL-211》〈作詞・作曲:堀込泰行/編曲:冨田恵一&キリンジ〉(03'26'')【1997】
- アーティスト: キリンジ,堀込泰行,岡田治郎,渡辺等,山本拓夫,藤田乙比古,大山泰輝,桐山なぎさ,武藤祐生,鈴木達也,高野哲夫
- 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
- 発売日: 1999/07/28
- メディア: CD
2 IN 1~10TH ANNIVERSARY EDITION~
- アーティスト: キリンジ
- 出版社/メーカー: おもちゃ工房
- 発売日: 2008/03/19
- メディア: CD
>ろひさん、nice!ありがとうございます。
by 都市色 (2013-04-16 01:34)
私は11日のNHKホール行きました。
怒涛のように繰り出される名曲の数々。
私は『DODECAGON』からなので、だいぶ遅れてきたファンです。
「第2期」の約7年はライブも結構見ました。
今回、「もしもの時は」にグッときましたね。
>ニッポンのポップスの生ける良心であり至宝
まさに。
これがちゃんと売れているのだからまだ大丈夫、と思える存在でした。
それだけに喪失感は大きいです・・・さらば、ホリゴメズ!
by nakamura8cm (2013-04-16 17:15)
>nakamuraさん、こんばんは。
コメントありがとうございます!
東京公演、観に行かれたのですね。
良かったですよね。
コロムビア以降は地方に住んでいたし、ビルボードへはあんまり行く気がしなくてご無沙汰でした。
『もしもの時は』は歌詞も良いんですよね。
これからの活動も楽しみです。
by 都市色 (2013-04-17 22:10)
ホリゴメズ名義を持ってるなんてさすがですね〜。
かせきさいだぁのオープニングアクトだったキリンジを観て、
すぐに買ったインディーズのキリン柄のCD。その日からヘビロテ!
それ以来二人に退屈したことは一度もありませんでした。
12日のNHKは達郎さんもビックリの4時間ライブ。
少し寂しいけれど、でも悲しくはないラストライブでした。
10年後、20年後いつになるか分らないけど、2013年の追加公演を
期待しています。
by ねこま (2013-04-19 21:34)
>ねこまさん、こんにちは。
コメントありがとうございます!
12日の東京公演、四時間ですか!
凄いですね。
兄弟での最後とはいえ、すごいサーヴィス精神。
行きたかったです。
四時間唄ってもまだまだ名曲は尽きないでしょうね。
ディクショナリーのカセットにホリゴメズ音源が入っていたのに気づいたのはメジャー以降でした。
きっとまたいつか二人で歌うときも来るんじゃないでしょうか。
もしもの時とは云わず、フラリと軽いステップでお互いのライヴに飛び入りで歌うのもイイですし。
二人には健やかに長生きして欲しいですね。
by 都市色 (2013-04-20 06:17)