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『シェルブールの雨傘/ミシェル ルグラン』 [サントラ]

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ボンソワ。
ムッシュウ、マダム、et マドモワゼル。
今月の初めに夢のような映画を観てきました。
『シェルブールの雨傘』(1964)と『ロシュフォールの恋人たち』(1967)。
前者の作品が製作されてから今年で45年を迎えることを記念して、
国内で、ようやくデジタルリマスターで修復された二本のリヴァイヴァル上映が実現しました。
この企画のタイトルは『ドゥミ x ルグラン=ミュージカル女優ドヌーヴ』。

フランスを代表する、女優カトリーヌ ドヌーヴ、
監督ジャック ドゥミ。
そして
音楽家、ミシェル ルグラン。
芸術の女神に見初められた三人による、香しきフランスのロマンティークな映画の結晶。

昨年夏に拙ブログにて『ロシュフォールの恋人たち』の国内盤シングルを取り上げました。
以降、昨年末から春先にかけて、この記事へのアクセスが急激に増えました。
このリヴァイヴァル上映への意識の高さ、期待、または鑑賞後の余韻の深さがアクセス数に反映されていると考えられます。
そういう訳でもう一本の名画に関するシングルも取り上げましょう。
『シェルブールの雨傘』。

「恋する」ことの喜びを描いた明るい『ロシュフォール〜』と異なり、『シェルブール〜』は「愛に生きる」と云うことに焦点を絞ったシリアスなミュージカルです。
物語の全編のセリフにメロディが乗っている、と云う実に不思議な世界感。
初めて観た時は少し戸惑ったけれど、見続けていくうちに気にならなくなりました。
一歩間違えればこの試みはシリアスなムードを損ね、失笑をも招きかねない挑戦だった訳ですが、ルグランのメロディは物語を淀み無く牽引する原動力となりました。
ドラマティックな展開をより深める為のドゥミ監督の演出の意図に見事に応えています。
ルグランとドゥミの信頼の大きさ、絆の深さ、友情の厚さを感じました。

そして数奇な運命に弄ばれるヒロイン、ドヌーヴの息を飲む程の美しさ。
初々しい少女が受難を乗り越えて魅惑の大人の女性に成長する物語。
単なる恋愛映画でなく、人生の悲哀を雄弁に描いた骨太のミュージカルでした。
この映画が伝える、流れる時間の残酷さは若い頃に観た時よりも実感となって胸に迫って来ます。
ドヌーヴは恋の喜びを知り、やがて愛することの難しさに悩むヒロインを演じ切っていました。
キレイごとでは済まない生きると言う行為、生き続けると云う行為。
ヴァラエティに富んだ可憐なファッションと髪型にうっとりさせられながらも演技の素晴しさに感激しました。
結果この作品は1964年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得しました。

この映画の成功があったから、後の『ロシュフォールの恋人たち』が生まれた訳ですね。
ドゥミ、ルグラン、そしてドヌーヴは大きな賭けに勝ったのですね!
ドヌーヴは当時、映画監督ロジェ ヴァディムとの間に子供が出来て、未婚の母として非難を受けていたときなので彼女にとってもこの映画は転機だった訳です。
この映画にかける思いが「美」となってスクリーンから伝わってきます。

さて、シングル盤について。
本日紹介するのはフランスのフィリップス社製の貴重なオリジナルの7インチです。
両面に二曲ずつ収録されています。

A面は一曲目は『SUR LE QUAI』。
「河岸の上にて」とか訳せば良いでしょうか。
ドヌーヴ扮するジュヌヴィエーヴとニーノ カステルヌオーヴォ扮するギィが真夜中、デートの帰り道のシェルブールの波止場にて、楽しそうに近い将来の結婚を語り合うシーンの歌です。
フワフワと甘く軽やかなルグランのメロディが若いカップルを包み込んでいます。

続いて二曲目は『DANS LE MAGASIN DE PARAPLUIES』。
デートの翌日、自宅の傘屋にて、ジュヌヴィエーヴがアンヌ ヴェルノン扮する母のエムリーと結婚について口論している歌です。
アンヌ ヴェルノンも綺麗ですよね。
ジャック ベッケル監督のラヴ ストーリィ「エドワールとキャロリーヌ」(1951)に主演しています。
この二曲は繋がっています。



B面の一曲目は『L'ADIEU』。
この物語の「愛のテーマ」とも言うべき、代表的なナンバーであり、映画音楽の世界でもスタンダードな名曲ですよね。
徴兵制度でギィが召集を受けて戦地へ赴くことになり、悲しみに暮れるシーンの歌です。





B面二曲目は、『DANS LA BOITE A MATELOTS』。
この曲はインストゥルメンタルです。
戦地での任務を終えて帰って来たギィでしたが、ジュヌヴィエーヴとは結ばれることが出来ず、失意のどん底に陥ります。
自棄になり酒場で娼婦と一夜を共にするシーンで流れるのがこのピアノのインストです。
奇しくも、その娼婦の名前も「ジュヌヴィエーヴ」でした。
メランコリックなメロディが儚く淡々と浮遊する様が、心ここに在らずなギィの心象を代弁しています。

“船乗りの箱の中で”という訳の題ですが、船乗りや水兵達が夜の社交場で女性と一夜を過ごすのに使う宿のコトを意味するのかもしれません。
ギィの幼なじみで彼の祖母を看病していたマドレーヌを演じたエレン ファルナーも実に可憐で美しいですね。



なお、劇中の出演者の歌の吹き替えは、
ジュヌヴィエーヴ役が、ダニエル リカーリ、ギィ役はジョゼ バルテル、そして、エムリー夫人はお馴染み、クリスチャンヌ ルグランです。
歌のキャストのこの映画への貢献も大きいですね。

それから、当時発売された国内盤のシングルにも言及しておきましょう。

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僕が持っている盤はA面が『JE T' ATTENDRAI TOUTE MA VIE』。
この曲のテーマソングの『L'ADIEU』の変奏作品。

B面は『GENERIQUE』。
テーマソングのインストバージョンです。
僕が持っているシングル以外にも国内盤は色々出ていたようですね。

さてさて、話は映画に戻ってもうひとつこの物語の面白さ。
それは『シェルブールの雨傘』と『ローラ』の関係。
この映画はドゥミ監督の処女長編『ローラ』のその後の映画だったと云う発見。昔観た時はあんまり覚えていなかったけど、その後、映画館で「ローラ」を観て感動して、そしてまた時間が経って、今回『シェルブール』を観て理解しました。
『ローラ』にて、アヌーク エーメ扮する踊り子、ローラに思いを寄せながらもフラレて海外へ旅立った男が『シェルブール〜』にて、宝石商となって出世して現れるのです。
彼はドヌーヴ扮するジュヌヴィエーヴにローラの面影を見いだして惹かれていきます。
その男性を『ローラ』で演じたマルク ミシェルが同じく演じています。
雰囲気もグッと大人になってます。
彼がローラへの思いを語るシーンで『ローラ』の舞台となる港町ナントの印象的なアーケイド街の映像が挿入されて、こういうドラマティックな展開がドゥミ監督らしい。
嗚呼、ナント、狂おしく美しい映画。
ボーイ ミーツ ガール映画の純粋な結晶。

今回の上映でのデジタルリマスターの威力は効果的でしたね。
「シェルブールも〜」「ロシュフォール〜」もくすみの無いクリアな映像で感動も倍増でした。
他のドゥミ作品も大きなスクリーンで観てみたいです。
それからDVDも国内で再発して欲しいです。
ブルーレイでも出たらデッキと一緒に購入を検討したい所存です。

美しいモノと出逢えたときに生まれる、「生きる」ことの喜びを噛み締めて。
ドゥミ監督の魂は永遠に映画ファンに宿る筈。
モナムール!

『LES PARAPLUIES DE CHERBOURG / SUR LE QUAI 〜 DANS LE MAGASIN DE PARAPLUIES 』《MEDIUM 434.882 BE》〈JACQUE DEMY - MICHEL LEGRAND〉(4’35’’)【1964】


シェルブールの雨傘 オリジナル・サウンドトラック完全盤

シェルブールの雨傘 オリジナル・サウンドトラック完全盤

  • アーティスト: ミシェル・ルグラン
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
  • 発売日: 2007/02/21
  • メディア: CD




ミシェル・ルグラン=ジャック・ドゥミ作品集

ミシェル・ルグラン=ジャック・ドゥミ作品集

  • アーティスト: サントラ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2008/12/03
  • メディア: CD



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トミュウ

こんばんわ!
どの曲も本当、素晴らしいですよね。
そして都市色さんのおっしゃる通り、作品どうしがちょっとだけ繋がっている
ところがまた良いんですよね!
ロシュフォールにも「シェルブールで出会った・・・」なんて言うセリフが
出て来たりして、嬉しくなります。
DVDぜひとも再発して頂きたいものです。ブルーレイもいいですね!
by トミュウ (2009-03-28 19:43) 

都市色

>トミュウさん、こんばんは。
コメント&NICEありがとうございます!
港町を繋ぐロマンス、良いですね。
実際にロケ地を訪ねてみたくなります。
フランスではドゥミ監督の作品も網羅したDVDBOXが出ているようですね。
羨ましいです。
by 都市色 (2009-03-28 22:49) 

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