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『天国と地獄/カーネーション』 [邦楽ロック10年代]

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こんばんは。
すっかり遅くなっちゃいましたが、今年もRecord Store Day(RSD)が開催されました。
レコード(CD)ショップとアーティストが協力して、小売店で CDやアナログレコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する、年に一度の祭典です。
多くのミュージシャンやレコード会社の賛同のもと、キャンペーン限定のアナログ盤やグッズが販売され、音楽ファンから好評を得ています。
このブログでもRSD限定のシングルを過去に取りあげています。
2008年から始まり、毎年4月の第3土曜日にRSDが開催される運びとなりました。2012年は4月21日(土)開催でした。
その運動は日本にも飛び火して、今年から日本のミュージシャンからも限定商品がリリースされました。

前置きが長くなりましたが、
幾つかリリースされた国内発のRSD限定のシングルの一枚を。
カーネーションの7インチ『天国と地獄』。
バンドの中心人物、直枝政広さんは国内ミュージシャン屈指のヴィニールジャンキーとして有名ですので、まさにRSDの国内アーティスト第一弾に相応しい人物。
そんなバンドの20年前にリリースされた4thアルバムのデラックスエディションのリイシュー企画から派生したシングルです。
当時はシングルカットされた訳ではなく、
元々このアルバムのアートディレクションを担当した八木康夫さんによるプロモーション用ポスターが発端でした。
ポスターにはこのアルバムがアナログ盤でリリースされたらと仮想しての、LPサイズのジャケットの原寸とアナログシングルのジャケットがデザインされました。
そのポスターにあしらわれたシングルのジャケットのデザインを元に今回、アナログ7インチ化が実現されました。面白いですね。
従って、この二曲は八木康夫氏による選曲であります。

そんなシングルのジャケットのメンバーたちの面構え。
不敵で良いですね。
とくに直枝さん。
ベレー帽を被った直枝さんはフランスかぶれなお洒落さんと云うよりは、トキワ荘出身のマンガ青年と云った風貌。つのだじろう的です。
それが素晴しい。

てな訳で「天国と地獄」。
このアルバムを聴いたのは今回のリイシュー盤が初めてでした。
ハッキリ言って凄い。
カーネーションのアルバムを本格的に聴き始めたのはトリオ体制の「LIVING/LOVING」からでした。
「EDO RIVER」も聴きました。噂通りのいいアルバムでしたが、「天国と地獄」はもっと凄い。
「EDO 〜」は今聴き返すとすごく90年代的なんですね。
90年代まっただ中の整った音がするんです。
それが「天国と地獄」はもっとゴツゴツしていて重厚な音がしました。
凄くロックンロールなのです。ワクワクします。
AMラジオ曲を無造作にチューニングするような猥雑で野性味のある音楽性。
演奏の情報量の豊かさ広さ。

制作されたのは92年なのですが、同じ90年代でも初頭の雰囲気が今は新鮮に感じられます。
ヒップホップのパワーが強い時代でサンプリングの手法も新しかったし、英国のマンチェスターサウンド、そしてハウス、ワールドミュージック等々。
様々なムーヴメントに活気があって新しいモノと古いモノがプリミティヴに衝突していた時代。
そんな外からの刺激を受けつつも、我が道を突き進むバンドの迷いの無さがハンパないです。
自由度のあるサウンドを保ちながら、バンドサウンドの醍醐味を強く感じさせます。
1曲目、ソリッドでタイトな16ビートのブレイクビーツのクールなイントロ。
どのように演奏するかよりもどの音を取捨選択するか、というセンスの冴え。
色んなジャンルの音楽がエッセンスとして取り入れられていますが、結果としては紛うことなきロックンロールの音。
エンジニアの寺田 仁氏の貢献も大きいと思われます。
次いで、このアルバムから新メンバーとして加入した大田 譲氏の骨太なベースも魅力です。
青山陽一さんが在籍していたグランドファーザーズからの電撃入団。
現在でもメンバーとして、相棒としてバンドの要であります。
さて、
このアルバムの四曲目のイントロにはスライ&ファミリーストーンの「IN TIME」の有名なイントロがサンプリングされていて、奇しくもピチカートファイヴも同年の同時期にリリースされたアルバム「スウィート ピチカートファイヴ」の最後の曲「コズミック ブルース」 の冒頭で同曲のイントロをサンプリングしています。直枝さんも小西さんも90年代に入って各々の才能が広く認知されるようになったと思うのですが、膨大な音楽のインプットを巧みにコントロールして作品をリリース出来るようになったのがほぼ同時期でもありました。
直枝さんの非凡なソングライティング。
ほろ苦くメロウなポップス。
粒ぞろいのオリジナル曲だけじゃなく、
ユニークな二曲の和モノのカヴァー。
その選曲とアレンジの妙。
一筋縄ではいかない、ひねりの利いたそれらの楽曲の魅力を増幅させるバンドアンサンブル。
新メンバーを迎え、一丸となって繰り出させる演奏のパワー。
矢部浩志さんの重量級のドラミング。
棚谷祐一氏の華麗な鍵盤さばき。
鳥羽 脩氏のエッヂの効いた饒舌なギターワーク。
5人体制の表現豊かな音の域。
さらにホーンセクション、東京ユニゾンのシャープなブロウ。
天国から地獄まで。
おはようから夏の終りまで。
岡林から島倉まで、ロールオーバー庫之助。
濃厚でレンジの広い音楽観を携えて、意気揚々とブルーにこんがらがるロックンロール。
敗者復活な名盤解放。

また話が長くなりました。
今度こそ、シングルの話題にズームイン!
A面の「天国と地獄」。
アルバムの締めくくりのエンドロール的楽曲。
「地球絶滅の日が来るか…」
と云うナレーションのサンプリングから導かれて、ミディアムテンポの朗らかな演奏が流れていきます。
この曲は直枝さんと矢部さんの共作で、ポップな矢部さんの曲(天国)が直枝さんのディープな曲(地獄)をサンドイッチして構成されています。
ビートルズのの「A day in the life」を彷彿させる楽曲の構造も似ています。
「A Day〜」もジョンとポールの文字通りの共作で、ジョンの曲を主体として途中でポールの曲がインサートされていますね。
曲の終りにも「地球絶滅の日は来るか…」というナレーションが流れます。
90年代初頭はまだ世紀末に世界が滅びると云う噂はまことしやかに信じられていましたね。
そう意味ではアルバムの曲の中で90年代を一番意識させる曲です。

B面は「愛のさざなみ」。
ハマクラさんの珠玉のロマン派歌謡のグランジ解釈と簡単に一言で紹介できない情念を感じます。
直枝さんの音楽人生に深い影を落とした奇跡的な名曲に負けまいとする直枝さんの気迫。
全身全霊で楽曲とくんずほぐれずの格闘。
しかもやや高いキーで。
特典のDVDにはこの曲の唄入れ風景が収録されていますが、
凄いです。
スタジオの録音ブース内での死闘の後、精根尽き果て倒れ込み、ブース内の死角に消えてしまいます。真っ白な灰状態の直枝さんにコンソール側にいたスタッフやメンバーは総立ち。

因みのこのシングルはアルバムとは異なるモノラルバージョン。
モノラルの威力、特に「愛のさざなみ」で爆発しています。

現在も最強のロックバンドとして君臨するカーネーション、永遠にやるせなく、果てしなく。
早くニューアルバムが聴きたいです。

『天国と地獄』《CSRD-1》〈作詞:直枝政太郎/作曲:矢部浩志、直枝政太郎/編曲:カーネーション〉(05'26'')【2012】


天国と地獄 20周年記念コレクターズ・エディション[初回限定盤、DVD付]

天国と地獄 20周年記念コレクターズ・エディション[初回限定盤、DVD付]

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン・レコード
  • 発売日: 2012/05/09
  • メディア: CD



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コメント 2

nakamura8cm

いい企画ですよね、モノラルシングル。
これがリリースされたときから都市色さんに是非レビューしてもらいたい!と密かに思っていました。素晴らしい記事、ありがとうございます。

最初、矢部さんの「天国」部分だけがあって、あとから直枝さんが「地獄」パートをくっつけたそうです。たしかに「A day in the life」ぽいですよね。構成といい、アルバムの中での位置づけといい。
「さざなみ」は最近のライブでもときどき思い出したようにやる曲ではあったのですが、先日のアルバム全曲再現ライブでは本当に久々に鳥羽(あ、修さんです)さんのリードギターで聴けて感激しました。
ついでにカーネーション小姑(笑)として指摘させていただくと、「大田」譲さんです~
by nakamura8cm (2012-06-15 00:34) 

都市色

>nakamuraさん、こんにちは。
コメントありがとうございます!
カーネーションマニアの方からコメントを頂けて恐縮です。
最近はこのアルバムとポールのラムばかり聴いてます。
誤字の指摘も有り難うございます。
大切なことです。
アップする前にはちゃんと見直しせねば。
鳥羽さん、大田さん、失礼致しました。
ビートルズの曲名も違ってるし。
慎んで訂正させて頂きます。
再演ライヴ、参加したかったですねぇ。ああ。


by 都市色 (2012-06-16 08:25) 

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