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『愛って林檎ですか/岡本舞子』 [邦楽女性アイドル/80年代]

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お早うございます。
最近、音楽に関する本を買いました。
割と最近出た本です。
それは僕にとってとても大きな意味を持っていました。
その本の名前は『ラグジュアリー歌謡』。
いわゆるディスクガイド本です。

そのタイトル、ラグジュアリー歌謡とは?
初めて名前を聞く方もいらっしゃると思います。
僕もこの本が出版されるニュースを知るまでは、そんなジャンル、知りませんでした。
でもその本に関する紹介文を読んで、俄然興味が湧きました。

“ラグジュアリー”って“豪華”とか、“贅沢な”という意味ですね。
つまり、豪華な歌謡曲、という訳です。
日本が経済大国として右肩上がりの成長を見せ、果てはバブル景気まで発展した時代に当たる主に80年代。
おなじく音楽産業も活気があった時代であり、同時にレコーディングのテクノロジーも日進月歩の勢いで発達した時代でした。アナログからデジタルへ。
そして大衆音楽として歌謡曲がまだまだ威光を保っている中で、70年代からアンダーグラウンドに展開されていた日本のロック/フォーク、ニューミュージック系のミュージシャンがようやく商業的成功を納め始め、歌謡界にもそのサウンドの影響が及び始めた時代。
それは同時に歌謡曲がより若い世代にアピールを始めた時代でした。
オーディション番組が隆盛を誇り、その番組から若い世代のアイドル歌手が続々と生まれていきました。
若者向けの音楽番組も増えました。
アイドルブームが起こりました。
若い世代向けのドラマ、アニメも増えました。
アイドルたちが歌う楽曲にもこれまでの歌謡界にないニューミュージック系の作家が関わることが多くなっていきました。
新しいものに興味のある若者が好む、流行の洋楽のエッセンスを取り入れた歌謡曲。
ポップな歌謡曲、都会的な歌謡曲。
つまりシティポップな歌謡曲。
そういえば、昔、関西には“ポップ対歌謡曲”というラジオ番組があったそうですね。
聞いたことはないのですが。

話が逸れました。
好景気を背景に、多額のバジェットを投下して制作されたポップでおしゃれな歌謡曲がテレビやラジオから流れ始めました。
ドラマやアニメの主題歌として、CMソングとして、我々の生活の中に溶け込んでいきました。
一億総中流意識下の、大量消費社会の日本でのポップな大衆音楽。
それがラグジュアリー歌謡。

本を購入してみて、一通り読ませてもらいました。
結論。
ラグジュアリー歌謡は僕の大好物でした。
ストライクゾーンでした。

70年代生まれの平均的な日本人なら程度の差こそあれ、このディスクガイドで紹介されている音楽を一枚も聴いたことがない人はいないと思います。
すごく敷居の低い親しみやすさで特に僕はこれらの音楽に馴染んできたのです。
それが証拠に僕がこれまで拙ブログで紹介してきたシングルの中で、このディスクガイドで紹介された音楽が少なくありません。特に80年代のアニソンは多いですね。
まったく同じではなくても80年代の女性アイドルは選ぶシングルは違ったりするけど、傾向は殆ど近いですね。
ビックリするというより笑っちゃいました。
これは別に自慢でもなんでもないです。

これから取り上げたいと思っていたシングルも多々掲載されていました。
シンパシーを感じちゃいました。

ロック少年に目覚める前、物心が付き始めたころにテレビやラジオから何気なく流れてきた音楽からの刷り込みの濃さ、深さ。
三つ子の魂百まで。
それらは大人になって聴いても鑑賞に堪えうるものが多いです。
勿論、70~80年代の頃の音楽のすべてが素晴らしい訳じゃないですが。
今の音楽シーンにない輝きが確かにあります。
現在の音楽シーンが失ってしまったモノがラグジュアリー歌謡には感じられたからこそ、この本を読んで胸が高鳴ったのでしょう。

そんな訳で暫くの間、ラグジュアリー歌謡にまつわるシングルをアレコレ取り上げたいと思います。

題して、“俺のラグジュアリー歌謡”。

前置きがいつも以上に長くなっちゃいましたが、
まずはこのディスクガイドで取り上げられていた作品を中心に紹介したいと思います。


この本の特集のひとつに、ラグジュアリー歌謡に携わった関係者のインタビューが掲載されているのですが、
代表的な作家として、山川恵津子さんが選ばれていました。
当時としては、大変珍しい女流作家。
ニューミュージック系としては作曲家はそれなりにいらっしゃいましたが、作曲のみならず、編曲もできる女性の作家は大変稀少でした。

拙ブログでは志賀真理子さんが歌った“魔法のアイドル パステルユーミ”のテーマソング『フリージアの少年』の作編曲者として山川恵津子さんを過去に紹介しています。
渡辺満里奈さんの『マリーナの夏』のアレンジャーでもありました。
そしてマリ・ウィルソンのシングルでも山川女史について書いてます。
個人的にはこのシングルからの衝撃は忘れられません。
詳しくはそちらの記事を。
山川さん、スゲェって話ですが、山川さんのサウンドには森 達彦さんという、これまた有能なシンセプログラマーが関わっていて、彼の影響もあることをラグジュアリー歌謡の本で知りました。

今回取り上げる岡本舞子さんの作品には山川女史の最良の仕事が多く残されています。
子役から芸能界で活動していた岡本舞子さんのアイドルとしてのデヴュー作が『愛って林檎ですか』です。
このシングルがリリースされる前年に“魔法の少女ペルシャ”のテーマソングのシングルを出していますが、プレデヴューという位置づけであります。
同じことが志賀真理子さんにもありますね。
彼女も本格的にデヴューする前から子役で活動していて、アニメソングの主題歌でシングルをリリースしていました。

さて、岡本舞子さん。
タイトルが印象的ですよね。
疑問形のタイトルの返答に困ってしまいます。
そんなユニークなタイトルの歌詞を手がけたのが歌謡界を代表する作詞家、阿久 悠氏。
タイトルだけはリリースされた85年頃から知っていました。
インパクトがあり、心に引っかかっていましたが、実際にちゃんと聴いたのは大人になってから。
初めて聴いたとき大いに感銘を受けました。
この曲の良さが本当にわかるのは大人になってからかもしれません。

実に文学的な素晴らしい歌詞です。
ラグジュアリー歌謡でのインタヴューによると、詞先だったそうです。
“初めて人を好きになってしまう”という経験に戸惑う乙女の感情の揺れを瑞々しい筆致に残した歌詞。
恋することの喜びではなく、畏怖や苦悩も滲ませた言葉の表現が非凡で、さすが阿久先生と平伏します。
聖書で伝えられている〈禁断の果実〉とは林檎を意味するという説もあり、そういう意味も歌詞に含められているのでしょう。

〝何か私に重たいものを 抱かせてしまいましたね
  形の見えない 不確かなものの 形をたどっているのです〟

歌いだしの歌詞から“恋、のようなもの”に違和感を覚える少女の気持ちが伝わってきます。
これは歌う純文学。
そんな阿久先生の深い歌詞を元にメロディを肉付けしていく作業ですが、見事に歌詞にピッタリなメロディ。
まさにオーダーメイド。
ビター&スウィートな黄昏色の旋律、素晴らしい。
“ですます調”の歌詞に合ったミディアムテンポの落ち着いたサウンド。
チェンバロ、アコースティックギターやストリングスの抑揚を効かせたフレーズが清らかに奏でられています。
デヴュー曲にしてはやや表現力を要する作品ですが、岡本舞子さんは堂々たる歌唱力で楽曲を消化しています。やや鼻にかかった、張りのある甘いトーンの声が胸を締め付けます。声に意志の強さと透明感が共存していて、歌唱にも安定感があって、儚げな表現が上手いですね。



上記の動画だけでこの曲を味わうには不十分でしょうが、岡本舞子さんの可憐な歌唱風景を堪能するにはバッチリです。美しい方ですね。
フルコーラスはこちらを。

B面は『桜吹雪クライマックス』。
同じく阿久&山川コンビの作品。
こちらもタイトルからしてユニーク。
阿久先生らしさ全開の劇場型のダイナミックな世界観の歌詞。
ジュリーやピンクレディのヒット曲のように、聴いていて映像が目に浮かぶような。
ハッタリを利かせた、ケレン味のあるフレーズが舞い踊ります。
花は短し恋せよ乙女。
阿久先生の放ったうなる豪速球の如き歌詞を見事にバックスクリーンに打ち返してしまう鮮やかな山川女史のサウンドメイキング。
これも詞先らしいですが、
叙情的な歌詞の勢いを殺ぐことなく、R&B調のダンサブルで都会的なサウンド。
艶やかなストリングスとブラスが吹き抜けて、
粋でいなせなメロディが舞い散ります。

サビの♪ 散らせて 散らせて という四文字のフレーズを疾走感のあるメロディにフィットさせる手腕の鮮やかさ。天晴れ。
天才です。
舞子さんの歌いっぷりも華やかです。



阿久先生のゴーカイな歌詞の世界に臆することなく果敢にチャレンジしてアイドル歌謡の名曲に仕上げてしまう山川女史と舞子嬢。
このとき山川さんは28歳ですから、若いですね。


上記の2曲、そして2ndシングル『ファンレター』(これも名曲!)も収録した舞子さんの1stアルバム『ハートの扉』は全曲山川恵津子さんが作曲とアレンジを担当したアルバムで80年代のアイドル歌謡屈指の名盤です。
一曲目から壮大なオーケストレーションが響き渡る流麗なバラードで圧倒されます。
一曲の駄作もない完璧な内容。
同じく、全曲のアレンジを担当した(内4曲を作曲)渡辺満里奈さんの2ndアルバム『EVERGREEN』(1987)も掛け値なしに名盤です。
この2枚にはアイドルポップスの魔法が感じられます。
80年代の明るさを封じ込めつつ、現在聴き返しても十分に鑑賞に堪えうる内容です。

まさにラグジュアリー歌謡仕事人と評すべき、山川恵津子女史。
ホント、山川女史が関わったアイドルポップスやアニソンは素晴らしいものが多いです。
達郎さんも認める才能。
80年代女性アイドルの女王に君臨する松田聖子さんの楽曲に比肩するサウンドの瞬間最大風速を叩き出す山川女史のメロディ、アレンジメント。

ラグジュアリー歌謡での山川、森両氏へのインタビューは大変貴重な内容で、80年代の日本の音楽史の裏側を知ることができます。インタビュアー、田中雄二氏の取材ぶりにも敬服いたします。
これによると、山川女史はしょこたんに興味をお持ちのようで、「フリージアの少年」をリスペクトするほどのアニソンマニアのしょこたんと山川女史とのコラボレーションで新曲が将来的に実現したら素晴らしいと思うのですが。
中川翔子、山川恵津子を歌う』とか、いかがでしょう。


次回の〝俺のラグジュアリー歌謡〟もお楽しみに!



『愛って林檎ですか』《SV9015》〈作詞:阿久 悠/作曲・編曲:山川恵津子〉(04'10'')【1985】


岡本舞子コレクション

岡本舞子コレクション

  • アーティスト: 夏目純,FUMIKO,松井五郎,川村真澄,秋元康,阿久悠,佐藤純子,尾崎亜美,今剛,山川恵津子
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2012/11/21
  • メディア: CD



ラグジュアリー歌謡: (((80s)))パーラー気分で楽しむ邦楽音盤ガイド538

ラグジュアリー歌謡: (((80s)))パーラー気分で楽しむ邦楽音盤ガイド538

  • 作者: 田中 雄二
  • 出版社/メーカー: DU BOOKS
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: 単行本


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コメント 6

いとぞう

瑞々しい中にもどこか憂いのある感じがとても良い曲ですね~。まさに80年代ですね。ラグジュアリー歌謡ですかぁ。初めて聞いた言葉かも。
僕らの世代って多くの人がそうだと思いますが、モロに洋楽でもなく、純粋な歌謡曲とも違う、洋楽のサウンドに影響受けながらも、歌謡曲ならではの”泣き”の要素を取り入れた曲が好きなんですよね。その多くが80年代に生まれたと思います。
山川さんというとやっぱり満里奈さんのイメージ強いですけど、阿久悠さんと組んでこんな良い曲作ってたんですね。しょこたんとのコラボ、実現することを望みたいです!
by いとぞう (2013-03-21 20:23) 

nakamura8cm

待ってました!
「桜吹雪クライマックス」めちゃいいですね!
これがB面って、なんと贅沢な。
『岡本舞子コレクション』買うべきですね、これは。

うちでも「私のラグジュアリー歌謡」開催中。
負けないぞ~
by nakamura8cm (2013-03-22 00:54) 

都市色

>いとぞうさん、こんにちは。
コメントありがとうございます!
80年代のアイドル歌謡の頂点は聖子さんですが、聖子さんに比肩する可能性を持ったアイドルソングも沢山ありますよね。
このディスクガイドにもありましたが、当時は影響を与えるほどのパワーを持った洋楽があったんですね。
サウンドやメロディを真似したくなるような。
今の洋楽は悪くはないですが、圧倒的にメロディの力は失せましたね。
日本人に通じる泣きのメロディが少なくなってますよね。

by 都市色 (2013-03-22 13:11) 

都市色

>nakamuraさん、こんにちは。
コメントありがとうございます!
80年代末以降の短冊CDの世界にもラグジュアリー歌謡はありますよね。
マニアックなものも多そうですね。
楽しみにしています!
岡本さんのシングル集は一時期廃盤で高値がついていたのですが、去年にまた再発されました。
1stアルバムから7曲も入ってます。

執筆陣の一人、関根 圭さんという方は短冊のオーソリティなのですね。

by 都市色 (2013-03-22 13:26) 

ノリ

ワタクシは二人ともタレントとしての印象が強いです。
岡本さんはモーニングサラダ、志賀さんはどんQ。
でも「愛って林檎ですか」はサビの部分を覚えてます。
阿久悠作詞だったんですね…言われてみれば、確かに。
山川さんはワタクシも「マリーナの夏」のイメージ。
青春の切なさを唄う佳曲…でも今どきの若い子は「地味」の一言で切り捨てるのかなぁ…。
by ノリ (2013-03-23 00:20) 

都市色

>ノリさん、こんばんは。
コメントありがとうございます!
モーニングサラダ!
ヒデキやとんねるずとか出てましたね。
どんQ!どんなモンダイQテレビ。
そういえば。
さすがお詳しいですね。

確かに『愛って林檎ですか』はすこしおとなしい曲ですね。
展開が激しい最近のアイドルものとは別世界な感じ。
岡井ちゃんは聖子ちゃんとか明菜さんとか好きらしいので、80年代ものとか歌うのを聴いてみたいですね。
by 都市色 (2013-03-25 06:17) 

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